第21話 忍び寄る悪意の影
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四人は蘇生の間から生き返ると急いで勇者の物に走って安否を確かめた。
慌てて生き返り立ち戻ってみると、仰向けにやりきった顔で寝っ転がる勇者の顔。
「慌てて来たのに……取り越し苦労だったわね」
ユリアがぼそりと呟く、汚れきった衣服からは想像も出来ない程の苦戦を強いられたことは言わずもがなだった。
「ミュラー様……壁を超えたみたいですね」
一人ティアラ姫だけは勇者が抱えている悩みを理解していた、悩みが解決されて清々しい顔を見て、まるで母親のように慈愛に満ちた表情をラインハルトに向けていた。
勇者が眠っている間にも忍び寄る不安な影は迫っていく、彼等が帰る途中洞窟内ですれ違った炭鉱夫から声がかかる。
「ありゃ? お前さん達その担いでいるのはひょっとして勇者かい?」
見知らぬ人からいきなり声を掛けられて対応に戸惑う、一番社交性の高かったティアラ姫が対応する。
「ええ、こちらは今代の勇者「ラインハルト・ミュラー」様です」
礼儀正しいティアラの対応に炭鉱夫は一瞬畏まりながらも、仰天した表情を勇者への視線を向けていた。
「そりゃおかしな話だ? 何故ここに勇者がいるんだ? 王都にいるんじゃないのか?」
言葉の意味を図りかねた、何を言っているのだろう。
「あの、失礼ですが……何故王都にいると思われたので?」
ティアラはこの能力を使い炭鉱夫の目を凝視する、魅入られるような綺麗な瞳に。
「い、いやきっと人違いだろう。 悪いな変な噂があってな」
会話も途中にそそくさと炭鉱夫は去って行ってしまう。
「あ、待って! どうゆう事です!」
引き止めようとしたティアラの制止はやや遅れていた、炭鉱夫の心の中を覗いたとき信じたくない出来事が浮かんで来たからだ。
そのせいか声が響いた後には炭鉱夫は既にいなかった。
「どうしたんですかティア姉さん?」
アレクが余りにも異常な汗をかいているティアラ姫を見て不思議に思った。
かすかにティアラの手が震えている、目は見開き驚愕を顔に張り付かせている。
アレクの問い掛けにもまるで聞こえていない、よっぽどの事だとアレクは察した。
「ティア姉さんもう一度聞きます、何を観たんですか?」
大賢者の問いに、壊れたブリキの様に首を向ける。 辿々しくユリア・サラ・アレクを一周して見回してから、深呼吸を一回して話出す。
「……勇者に国王弑逆の嫌疑がかかっています」
ティアラから伝えられた情報は信じられないものだった。
「なんで! ハルトが?」
「どうゆう事だ? まるで分からん」
「弑逆……穏やかではありませんね」
三者三様に考えを巡らせる、否定する者、思考停止する者、推察する者。
各々が勇者にかけられた嫌疑の真偽を確かめていた。
「でも、まだ一人です。 あの人が勘違いしているだけかも知れません」
みんなをそう言って落ち着かせようとするティアラ、だがその自分が一番気が動転しているのは誰の目にも明らかだった。
実はティアラ自身思い当たるところがあった、自身の能力「心読み」は人の心を読み取ってしまう、その為王宮では深窓の令嬢として育てられたのだ、強制的に。
疎外させなければ彼女の能力によって悪しき者達はすぐに断罪される、その為政治の場から彼女は遠ざけられた。
今回の勇者随行も貴族達の思惑があった事に気付いてはいた、何かを仕出かす可能性は高かったがまさか国王弑逆などと言ったふざけた犯行に及んだ過程が信じられなかったのだ。
「大丈夫ですよ、きっと何かの間違いです」
重ねてみんなを落ち着かせる、汗を垂らしながら。 自分自身がこの能力の凄さを体感している、嫌という程に。
炭鉱夫の心の中は噂の類では片付けられない程の強い確信を持っていた、自身が見過ごされたのは勘違いなどではない。
きっと知っていたのだ、だから私たちに関わらない様にすぐさま逃げたのだ。
誰から逃げたか? それは洞窟を抜けた先に答えがある。
「勇者とその仲間ですね、あなた達を連行させて貰います」
洞窟の出口には衛兵が何人も取り囲んで勇者達を睨んでいた。
「(あぁ、この人達も……)」
ティアラは威圧される異様な状況から一歩先んじて前に出る。
「あなた達! 私が誰か分かっているのですか? 私は第一王女ティアラ・セドナですよ!」
気迫のこもった名乗りに王の衛兵は一歩後ろに後ずさる、王女の凄みに踏鞴を踏んだのだ。
皆が後ろに下がる中一人が進んで前に出る。
「ティアラ王女、申し訳ありません。 私達供も信じられない、ですが事実なのです。私はこの目で見たのですから」
前に進んで来たのは国王謁見の際に勇者と歓談していた騎士団の同僚だった。
ティアラが何より驚いたのは同僚が出てきたことではなく、その心の中と発言にあった。
「……嘘でしょ、そんなお父様……」
ティアラは目の中の心を覗いたときに見てしまった、我が父にして国王が勇者に背後から胸を突き刺されている光景を。
「……そんな、そんな! どうゆうことです! 一体王宮で何があったというのです!」
訳がわからない。勇者はここにいるはずなのに、おかしい、あり得ない! ティアラの心は破綻寸前だった。
「ティアラ姫、心をお読みになりましたか……私は国王様の寝室の前で護衛中でした、国王謁見後の夜に私は観てしまったのです。部屋の中から悲鳴が聞こえ、すぐさま入るとそこには国王を背後から剣で胸を突き刺している勇者の姿を。信じたく無いです!信じたく無いんですよ! でもその後貴方達は慌てて仲間と共にこのダグレフトに逃亡、信じたくないのですが……辻妻が合うのです。」
悲痛な面持ちで顔を下に向ける、きっと勇者を疑いたく無いのだろう、同僚として上司として憧れの人物の大罪。
複雑な心境になってしまうのも無理はない。
「勇者はまだ目を覚ましていません、それを待っても良いのではないでしょうか?」
ティアラは苦し紛れに言い訳をする、勇者が父上を殺したなんて考えたくもないし、考えすら思いつかなかった。
そして死んだ父上に会いたくなかった、この時以上に自分の能力が消えてしまって幻惑を魅せられているだけだと呆けて居たかった。
「すいません、これは決定事項なのです。 逆らわなければ任意同行になります。どうか私達に錠を掛けるなどという罰を与えないで下さい」
どちらにも悲しみに溢れる誰も幸せにならない痛々しい空気に晒される。
一人幸せそうに微笑んでいる勇者がとても哀れで、そしてとても辛かった。
ダグレフトから王都へ戻る、その一行は異様としか言いようが無い。
捕まえた騎士団も、勇者一行も総じて顔を下に向けている。
やがて王都周辺に入り、やっと勇者が目覚める。
勇者の身体は怠惰を倒した事によりレベルアップして居た、反作用として長い眠りについてしまって居た。
それが幸か不幸か王都の門直前で目が覚めたのだ。
「……あれ? ここはどこだ? あぁアレクおはよう」
寝ぼけた眼でアレクを確認する。
「みんな? あれ騎士団のみんな? どうした?」
覚醒してきた状況でやっと異常な状況が分かって来た。
「……それにここは、なんで王都に」
勇者が王城を見付けてそう声をあげた途端。
王城に鉛筆の様に突き立って居た監視塔の2箇所が爆発した。
「はっ?」
ラインハルトはそんな間抜けな声しか出せない。
塔が爆発により落ちていく様を見ているしかなかった。みんなが皆、理解が追い付かない。
この爆発から、王都を巻き込んだ勇者ラインハルトと因縁が深い使徒との戦いの戦端が開かれようとしていた。
名前 ユリア・スカーレット
職業 糸使い
ステータス レベル36
HP 235
MP 331
ATK 156
DFE 121
INT 254
AGE 308
称号 忌子 大罪人の子孫
名前 サラ・グラム
職業 音消し(ユニークスキル)
ステータス レベル74
HP 443
MP 543
ATK 134
DFE 221
INT 476
AGE 732
称号 大盗賊の末裔 お宝コレクター 鷹の目
名前 ティアラ・セドナ
職業 聖女 (レジェンドスキル)
ステータス レベル22
HP 157
MP 554
ATK 81
DFE 114
INT 289
AGE 71
称号 神託の巫女 断罪の姫 第一王女 祈りの聖女
能力 心読み
習得魔法 神聖魔法
補足 一応死んだのでユリア・サラ・ティアラのレベル及び能力の低下が発生して居ます。 だた物語上にはあまり関係が無いので無視して構いません、ただ死んだからデメリット食らったよという表示としての認識で大丈夫です。
アレクのステータスが乗らないのはもう下がんないからです、やったぜ!




