第16話 王都散策。
読んでいただきたいて、ありがとうございます。
王城に拝謁する前の出来事。ユリアとサラそしてアレクの三人は王城に向かう為の服を調べて居た。
と言ったものの、ごった返す城下町で自分の気に入った服を見つけるのは至難の業で、王都の知識の無い三人は勇者を連れてこなかった事に後悔した。
「どうすんのよ、ハルト連れて来た方が良かったじゃ無い! 何が私に任せろわよ」
「私が居なかったら迷子になって居ただろうに偉い口を利く!」
何故かユリアとサラの口喧嘩に発展して居た。二人がガミガミを言い合っている間にアレクは何をしているのかというと。
「へぇ、そうやって作るんですかぁ……あのもし宜しければもっと作る前を見せて頂いても?」
二人を放置して、魔法屋のポーションの作り方をお婆ちゃんにしつこく聞いて居たり居なかったり。
「坊や! 私について来なさい!」
「いや大賢者さん! こっちだこっちに来い!」
襟首を掴まれてグエッと鳥が首を閉められた様な声をアレクが出す、当然そんな乱暴に扱われれば。
アレクは一瞬で二人の前から消え去ってしまう。
消えゆく粒子を見ながらボーッと、消えていく光は綺麗だなぁ、なんてしょうもない事を考えてた。
何だかさっきまで口論して居たことが阿呆らしい。
「……なんか、怒る気無くなっちゃった」
「……だな、私も見切り発車な部分があった」
アレクの死亡を境に冷静になる二人、大賢者は尊い犠牲を払った、というより大賢者が居なくなったので教会に行くより他がなくなった。
「取り敢えず教会行きましょうか?」
「そうだな」
そうして二人は別々の方向に歩き出す、あれれ? おかしいぞ?
「……盗賊さんちょっといい?」
「……糸使い、私も思ったところだ」
二人はやはり同類なのだろう、このとき思って居たことは一緒だった。
「「教会どこ(どこだ)?」」
二人の珍道中が始まる。
「え? まさか大盗賊ともあろうお方が教会をご存知ない?」
「は、はぁ? 知って居ますよ? 頭大丈夫?」
口論が再燃する。ユリアの先制攻撃にサラは逆ギレで応戦する。
「あ、そう? へー、じゃあどこにあるか教えて頂けます? 大盗賊さん?」
「フッ、教会なんて私の手に掛かれば瞬殺ですよ」
瞬殺かどうか分からないが、サラは自信を持って応答をした。
ニンマリと笑う表情を見てユリアが訝しそうに目を細める、何やらサラには自信を裏付ける根拠がある様だ。
「見て下さい、私の一族が大切にしている秘宝、まだ誰も見たことが無いとされる大陸が載った世界地図だ!」
どこから出したのか縦横合わせて2Mは有るのでは無いかと思われる巨大な世界地図を出して来た。
「何ですって!?」
一応流れで反応するユリア、特に意味はない。
「フフフ、ここが王都だろ?」
そう言って世界地図にある一点に手を添える、その上には文字で「ハルザ」と書かれている。
「うん、で? 教会は?」
「ここだ!」
さっきより1ミリ下を指す、まるで場所が分からない。
ユリアの目がどんよりと暗く染まる。
「ねぇあんた、知らないって言った方が身の為わよ」
ユリアはこの一連で気付いた、サラは教会の場所を知らないと。
頭を抱える、付き合ってられん。
「あぁ、すまん君は地図が読めない程の馬鹿だったか……すまんな」
「はぁ!?」
IQが同じもの同士しか争いは起きないと言う、また第三次口喧嘩が勃発する。
「あのね、常識で考えてくれる? 普通王都内の地図とか出すでしょ」
「何だ、それならあるぞ?」
「あんのかよ!」
思わず突っ込む、ユリアにはツッコミの才能があるかも知れん、そしてサラは天然ボケが破壊神クラスだ。
「だが待て、今協会をサーチする」
「さっき指差してたじゃない、どこよ」
「………」
ユリアの言葉をガン無視するサラ、良い度胸だ。
徐にポケットから小物を取り出す、見たことのない黄色い宝石に紐が付いていた。必死に地図の上でその小物を垂らしてクルクル回している。
さながらダウジングするかの様な動きである。
「何してるか聞いて良い?」
「協会を探してる」
「それ何?」
「我が秘宝第二弾「イエロークリスタル」だ、世界に一つしか無いと言われている希少石だ」
その希少石で何をしてるのかが知りたい、サラは真剣な目付きでイエロークリスタルを回す。
やがて一つの場所で止まる、どうやらそこが協会らしい。
「まぁいいわ、そこが教会って事ね行きましょう」
二人はサラのダウジング結果を元に周りの市民に聞いてその場所に行ってみる。
「……井戸ね」
「……き、教会だ!」
苦し紛れに言い張るサラ、負けず嫌いな所もユリアそっくりである。
ユリアはそんなサラの必死に協会を探す姿を見て居て、何だが喧嘩して居たのが馬鹿馬鹿しくなった。
「サラ、二人で素直に協会探しましょう?」
「糸使い……いま名前で?」
「もう良いでしょ。あんたも私のこと名前で呼びなさい」
「……そうだな、悪かったよ。……ユリア」
目を向かい合って、二人は名前で呼び合う。本当の意味で仲良くなったのはこの時だったのかも知れない。
色欲と戦った時互いの能力に尊敬し、憧れた。二人はどこまで行っても同類なのだろう。
サラは気を取り直して、自身の宝を惜しみなく広げる。
「何いきなり!?」
「一族の秘宝を使えば本当に探すのは簡単だと、教えてやる」
「はいはい、良いわよ付き合ってあげましょう」
中にはガラクタじみた物や逸品物まで、サラの持っている宝はそれこそ大量に存在した。
「これ、どこに入って居たの? それにまるで風化している感じが無い」
その疑問は当然だった、サラが出している宝はどれも大昔の宝ばかり、なのに先程出した世界地図と言いまるで劣化がなかった。
「それは、一族の最大の秘宝「ケシのバッグ」さ」
心底嬉しそうにサラは身につけて居たバッグを見せてくれた、それは何の変哲もないバッグ。
誰も秘宝などとは気付かないだろう。
「このバッグは初めの大盗賊「ステラ・グラム」の遺産よ、何でも入るしその全てが朽ちない。我が一族が宝を集めれる理由がこれにある」
愛おしそうにバッグをなぞるサラ、その表情から如何にこのバッグを大切にしているかが分かる。
「良いわね、大切なものがあるって」
「使命だからね、宝を集めるのがな」
横顔がやけに大人びて見えたからつい質問してしまう。
「ねぇサラは何で世界中のお宝を集めているの?」
サラはこの質問に曖昧に笑顔を向きながら話す。
「魔王の完全消滅って聞いてはいるけど、正直分からないんだ。私はそれが知りたいのかもな。私の一族が一体何を成し得たくて宝を集めて居たのか」
答えをサラ自身が知らなかった、使命を果たす。 それだけを心に刻んで邁進して居たのだ。
サラの意外な一面を知って、ユリアは自分も一族の事を知りたがっている同じ境遇に立っている事を理解する。
「私も同じだわ、私の祖先が一体何をしたのか。それが知りたい」
二人並んで王城を見上げる、空は茜色に染まり始めて居た。
結局サラの宝を使い、二人で協力をして教会まで辿りついた。
協会の入口に着くとちょうど勇者と、おんぶされた状態のアレクの姿があった。
「あれ? ユリアにサラ、お前達アレクと一緒じゃなかったのか?」
事情を何も知らないラインハルトは二人に質問する、アレクは勇者の背中でまだ眠って居た。
勇者におんぶされている大賢者と言う光景に、二人は変な仲間しかいないことを再確認して、目を合わせて笑いあう。
「笑いあっているのは良いんだが、お前達服は見つかったのか?」
…………その後、必死こいて服を探しに行ったのはご愛嬌である。
この話を挟む事にしました、サラの出会いの変更は無しになります。失礼しました。
ここから第三章へと移行します。




