第15話 王族の姫「ティアラ」。
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「……良くぞ参られた勇者ラインハルトよ」
「はっ! 我が王に憤怒の使徒「マルス」撃破そして色欲の使徒「レイネシア」の撃破を報告に参上致しました!」
王城に案内され四人は一際目立つ大扉の前へ立ち止まった。
王国の紋章が描かれた旗が左右にはためくその扉の先は王の間。
継承儀式や、国事の布告を宣言する場所として使われている。
拝謁するために一歩入った瞬間に襲われる射殺す様な視線。
王の間には王族とその他貴族が左右に並んで勇者たちを威圧していた。
「(貴族にとっては私は忌むべき存在か……)」
勇者は本来貴族から選出される事が多かった、伝説の大勇者がその後この国の国王となった為だ。
だがラインハルトは違った、昔から突出した剣技は村でも異端とされ、瞬く間に騎士に抜擢される。
当然面白くないのは周りの貴族である、その周囲の視線に耐えながらも必死に食らいついて行った。
ラインハルトに光魔法の適性があると判明するのは騎士団に入った2年後の18歳の時だった。
驚きと悲鳴が貴族の間に響き渡る、平民の男に勇者の適性が発現したためだった。
異色の昇進を繰り返し騎士団隊長となったラインハルトは巫女より勇者の神託が降る。
民衆は大いに盛り上がった平民からの勇者誕生、英雄の誕生だと。
王侯貴族の間に敵の多いラインハルトは今回使徒撃破という偉業を引っさげて帰ってきたのだ、面白いわけがない。
「何! 二体を倒しただと! 真かラインハルトよ!」
国王は憤怒の撃破の報しか知らされていなかった、周りの貴族にも驚きが伝播する。
「(嘘だろ? 二体なんて法螺吹きやがって)」
「(でも憤怒は倒したって……ありえるのか?)」
「(調子付きやがって、また負ければいい)」
暗い感情で見つめてくる貴族たち、勇者はその視線に必死に耐えながら国王へ返答する。
「はい! 色欲の使徒「レイネシア」は旅の途中に遭遇し撃破いたしました」
そう言うと勇者は右手に力を解放させる。
「ハーベスト【収穫】!」
目の前に見慣れない魔法陣が展開される、その魔法は使徒撃破の何よりの証だった。
「……その魔法、言い伝え通り収穫の能力。其方の撃破の報は真実と疑う余地は無い」
「信じて頂き感謝を、これに勝る喜びはありません」
勇者は自分の力を皆に示した、国王は提案する。
「ふむ、では其方には褒賞を与えねばな」
「……有り難き幸せ」
国王の申すことに反論などあってはならない、例えそれが無理難題でもだ。
「私の娘を知っているか?」
「陛下のご息女……「ティアラ姫」ですか?」
「そうだ、其方の旅に同行させてやって欲しい」
「!! な、何をおっしゃっているのですか!」
王族の姫を危険な勇者の旅に同行させるなど控えめに言って頭おかしい。
喉の手前まで漏れ出そうになる罵声の発言を慌てて飲み込んだ。
「……なぜ、と質問してもよろしいでしょうか?」
「なぜだと? ラインハルトよ不服か?」
「…………いえ、出過ぎた発言申し訳ありません」
「よかろう、ではセレス出て来なさい」
国王の発言に一人の女性が進み出る、純白のドレスに身を包み腰まで伸びる金髪。
人を惹きつけて止まない同じ金色の瞳、わずかな微笑みを湛えてゆっくりと勇者の前に歩いてくる。
「二度目ですねミュラー様、私はティアラ・セドナです、よろしくお願いします」
膝を少し落としてドレスを広げてお辞儀をする、まさにお姫様がそこにいた。
勇者はティアラの瞳を直視できなかった、一度目にあった時にあまりいい記憶が無い。
それよりも痛い程の視線が今は別の物に変化している事で気が逸れていた。
周りを見渡せば貴族の視線が威圧から嘲笑に変わっているのが空気で伝わってくる、それはこの姫に纏わる為だった。
「(国王様、私に一体何を……)」
貴族がクスクスと笑い出してしまうのも無理はなかった、王族と言えど決して強いわけではない。
深窓の令嬢と名高いティアラ姫は鍛えもせずレベルは20とそこそこしか無いのだ。
貴族のみんなは姫という大層なお荷物を勇者に抱えさせる魂胆だった。
「ティアラ姫よ、我が命に代えても必ず御守りしましょう!」
貴族から嵌められたことを悟りながらも言葉では精一杯の忠誠を国に捧げるラインハルト。
王の間の全員が笑い合う、複雑で不快な空気を奏でながら。
もう決定事項となったティアラ姫の旅の同行、王様は勇者の返答に満足して頷き更に言葉を重ねる。
「ところで勇者ラインハルト、そなたの後ろにおる三人は一体どうゆう者たちだ」
「……魔王討伐の助けとなる、我が仲間たちに御座います」
「ほぅ仲間とな、紹介してもらえぬか?」
「はい、直ちに!」
勇者はホッとしていた、例え勇者の随伴だとしても身元の不詳な三人はいつ断罪されてもおかしくなかった。
その点で言えば馬子にも衣装というのか、昨日一日使って見繕った衣装は三人の救いとなっていた。
ちゃんとした衣服を着ていることが、少なくとも王の反感を得ずに済んだのだ。
「まずはここにいる少女はユリア・スカーレットと申します」
「お、おはちゅにお目にかかります王様」
辿々しく話すユリア、緊張で少し噛んでいる。
「どのような経緯だ」
「はい、紡績の町「ハルザ」にて憤怒の使徒「マルス」と遭遇、その時に手助けをして頂いた少女です。彼女の多大なる功績により使徒撃破に辿り着いたと言って過言ではありません、能力を買って私の仲間として随行しております」
「そのようなか弱い少女が使徒を……」
「はい、私が勇者の名を持って約束します」
応答をしながらも内心ビビりまくっていた、ユリアの糸使いのスキルは大犯罪者のスキル。
バレれば即獄門行きの可能性があるからだ。
「その方の能力は何という」
「彼女の能力は……優秀な火魔法です。髪のように真っ赤な炎を得意とします」
話した途端背後から呆れた表情をされた、実は昨日みんなでこうなったときの回避策を考えていた。
バレたらまずい事をユリアも感じたのだろう、すぐに表情を引き締めて姿勢を正した。
「ではその火魔法みせてみよ!」
国王が上機嫌に発言する。予想外だった、勇者はいきなり吹き出して来た嫌な汗を垂らしながらユリアを見る。
するとユリアはニヤニヤと笑っているでは無いか。
「(何を考えているユリア!)」
勇者の不安を他所に詠唱を開始するユリア。
——這い出でたるは地獄の業火、現れたるは灼熱の槍。顕在せよフレイムランス!——
そう言った瞬間に、膨大な熱量を持った炎の槍が王の間の床に突き刺さった。
おぉ! という周囲の声が木霊する、勇者は逆に困惑した。
「(あれ? ユリアってこんな魔法使えたっけ?)」
仕掛けを探す勇者、案外簡単にその種はばれた。
「(アレク……お前の仕業だな?)」
勇者が認識している中で魔法が使えるのはアレクしかいない、ラインハルトの帰結通りアレクが後ろから無詠唱で魔法を唱えていたのだ。
「(俺に内緒で企むな! 心臓に悪い!)」
後ろの二人はドッキリが成功したようにニッコリと笑っていた。
「す、凄い火魔法だった、ユリアよ其方の力は十分に分かった。 もう使わなくて良いぞ!」
「はっ!」
王様の額を見ると冷や汗を流している、そうだよね、それ以上ぶっ放したら城が大変なことになるからね。
勇者は同情した、だが追撃をやめない。畳み掛けるようにしてサラの素性を有耶無耶にする。
「では続いて、二人目はこのサラと言います。ユリアと正反対でして水魔法が得意です」
「み、水魔法……」
二人の会話にサラが割り込む。
「失礼、国王様。 先ほどのフレイムランスなんかよりも素晴らしい水魔法をご覧に入れましょう!」
サラはノリノリだった、案外こうゆう芝居が好きなのかもしれない。
「い、いや大丈夫だ! 本当に大丈夫だから魔法を放つな! よいな?」
「……そうですか残念です」
残念がるサラ、芝居が神懸かっている。演技だよね?
「火魔法に水魔法の達人……成る程、勇者を後衛から支えるに適任だ」
実際には勇者は蹲っていたか気絶していたなんて口が裂けても言えない。
「そうです、頼もしい仲間です」
口をヒクつかせながら勇者は返答する。
「それで……だ、最後の其処にいる少年は何だ? また魔法使いか?」
流石に三人とも魔法使いはまずい、アレクは大賢者なんだがな。
勇者は用意していた取って置きの言い訳を発言する。
「この子はアレク……私の甥です!」
「は? 甥とな?」
「はい、甥です」
「……なぜ甥がいる?」
「それは語ると長くなりますがよろしいですか?」
勇者はアレクの両親が不慮の事故で亡くし身請け先である町まで同行させるというエピソードを語り出した。
聞くも涙語るも涙、勝手に作り上げた物語は王様の優しい心に深い感銘を刻んだ。
作り話は城下町まで伝播しその日から「慈悲深いハルト」という二つ名が追加されるが話した本人は自業自得で悶絶することになった。
大賢者の職業は決して、一番明かされることは出来なかった。それは王国乃至人が魔族と啀み合う秘密に関わることだったためだ。
創世神話でしか出てこない大賢者、大賢者はこの世界を作りそして消滅したと伝えられている、空想の職業。
それがもし居るとしたら、創世神話の出来事が真実となってしまう。
不都合な真実、それは魔族と人が同じ種族だということ。
そのために必死に隠したのだ、バレればアレクは知らない間に抹消されてもおかしく無い。
だかその不都合な真実を知って居るのはアレクを除いて一人しか知らなかった。
かつて聖人と呼ばれ民に寄り添う優しき人物は、王都追放の憂き目にあったのだ。
勇者はその人物から決してバレてはいけないと念を押されていた。
「(どうやら無事に終わってくれたようだ)」
三人の詐称がバレる事なく済んだ勇者は、柄にも無い事をしたと肩を回した。
国王謁見の一件はこうして無事穏便に事がなったのだ。
「ミュラー様、嘘はいけませんよ?」
王城を出て安堵した後ろから声をかけて来たのは新しく仲間になったティアラ姫だった。
「ティアラ姫、嘘などとは……」
「うふふ、ミュラー様は私の職業をご存知のはずでしょう?」
ティアラ姫もまた忌み嫌われて居る存在だった、いや恐れられた存在だった。
貴族が押し付けるのも分かる、嫌われてつけられた二つ名が「断罪の姫」。
その能力故に、幼き頃から彼女は人を罪に陥れてきた。
「私、あなたのその清い心の内に惹かれたのです。私に嘘は通じませんよ?」
「……参ったな、この事は国王には内緒で頼みます」
「ええ、私も城の中は飽きました。ちゃんとエスコートして下さいね?」
勇者はティアラ姫と一度王都で合っている、勇者継承の儀式の日。あの秘密の魔法陣の部屋に彼女はいた。
彼女こそが神託の巫女だった、ラインハルトに勇者の神のお言葉を告げた張本人。
全ての真実を見通す「心読み」の異能力を持つ選ばれたレジェンドスキルの持ち主。
それが「聖女」ティアラ・セドナである。
名前 ティアラ・セドナ
職業 聖女 (レジェンドスキル)
ステータス レベル23
HP 167
MP 563
ATK 89
DFE 120
INT 301
AGE 75
称号 神託の巫女 断罪の姫 第一王女 祈りの聖女
能力 心読み
習得魔法 神聖魔法
補足 生まれた時から周囲の心の声が聞こえる異能を獲得していた姫、その為醜い心の争い渦巻く王城内の抗争に飽き飽きしていた。 勇者ラインハルトを見つけた時、その真っ直ぐな瞳と邪気の無い心の内に惹かれることになる。
勇者にはバレていないが今回の同行で一番喜んだのは王女本人だった。 同行の件も貴族の企んだ謀略だと気付いてはいた、きっと自身が居ない間に悪さをする筈。 断罪の姫は貴族達にとって王の番犬だった。
因みに能力は相手の目を通してでは無いと心の内は読めない、謁見の間でラインハルトが直視出来なかったのはその為である。
重要な胸のサイズだが大きくもなく小さくも無い、完璧な王女である。