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第14話 王都帰還。

読んで頂いて有難うございます。


 勇者の知らないところで三人は色欲の使徒「レイネシア」の撃破という大業を成していた。

 ラインハルトは自分が気絶しているうちに三人で撃破していたという報告を聞いて、愛想笑いを浮かべていた。


 本当に三人で倒してしまうなんて……


 自分の右腕に宿っている能力を解放したときに、私を抜いて使途を倒したと言う真実の大きさに自分の足の底がぽっかりと抜け落ちる様な不安定な情動を隠しきれなかった。

 それはちっぽけな虚栄心と言うものなのだろうか、それとも消魂をしているだけなのだろうか。

 本人であるラインハルトでさえその感情を簡単に整理する術を知らなかった。

 覚束なく左右に揺れる目でアレクに言われるがままに能力の解放する言葉を発する。


 「ハーベスト!」


 詠唱とともに右の肘にある魔法陣が紫色に輝き、自分の頭の中に文字が羅列した。

 脳に直接操作方法を教えてくれる、その指示に従って範囲を三人が領域内に入る様に指定。

 まるで自分の中に眠っていた記憶が復活する様に、複雑で多様なハーベストの能力を勇者は自由自在に操れた。


 「これは、すごいな……」


 呟きは自分に向けたものだった、自分の中にこんな隠れた能力が潜んでいると言う驚愕と優越感。

 何よりも使徒の能力を明確に使えることが、勇者としての自信を持つ証明になった。

 だからこそ、ラインハルトは自分の能力、自分の力について見直さなければ行けなかった。

 色欲に会った瞬間、自分の記憶は其処で途切れていた、三人はその色欲相手に戦って勝ったという。

 嬉しそうに自分の能力を褒めてくれるアレクを目の前に見て、不甲斐なさを感じた。


 「(何をしているんだ俺は、勇者なんだぞ!)」


 騎士団に所属していた頃から人一倍責任感が強かったラインハルトは今回の失態を許せなかった。

 勇者という大袈裟な看板を掲げているのに、今の所役に立っているのはアレクのおんぶ位だ。

 

 「(仲間に頼ってはいけない、修行をしなければ)」


 勇者は王都でやるべき事を見つけた。




 数日の旅を終えてついに王都「ハルザ」へと到着した。

 切り立った山を利用した王都は、天然要塞都市としての意味も持ち、山の上層には鉛筆を上向きに乱雑に並べた様に高い塔が並ぶ、その一つ一つが門への監視塔を担っていた。

 王城はその奥にあり、山の地形を利用している為か枝垂れ掛かる様に奥から手前に細長く存在する。

 下に見渡せば、国一番の城下町が見える、城下町は山の麓に形成されており、国の中枢に存在する為に実に8箇所の交通路が舗装されていた。

 人々は滅多なことがない限り山の上に登ろうと考えない。遠目から見てもその姿は市民と王族の距離の遠さを表している様で、近寄りがたい雰囲気を持つことは確かだった。

 城下町の外周をぐるっと高い壁が覆う、難攻不落と言われ。魔王の侵略を一度も許したことがないと言う法螺話を信じてしまいたくなる威容を兼ね備えていた。

 

 「これが王都……知識よりもこの圧倒感は凄いですね」

 「ハルザの何倍の広さかしら、デカイわね」

 「勇者さん王城の地下にはお宝が眠ってるって聞いたことあるけどほんと?」

 「サラは何物騒なこと言ってるんだ、はぁ王都か……」


 ラインハルト以外は嬉しそうに新鮮な景色に脳が再活性する。

 重い溜息を吐く勇者は王都を出る前の嫌な思い出をフラッシュバックしていた。

 暴食の使徒「カーミラ」に完膚無きまでに倒された時、王都の民は期待の裏返しで勇者に冷たく当たった。

 期待の反動から「勇者のくせに」「弱虫」「腰抜け」いろいろな二つ名がつく。

 勇者のことを元よりよく思っていなかった貴族なんかはこぞって非難し、笑いのタネにしていた事をラインハルトは知っていた。

 

 あの時は一歩踏み出すことでさえ、何も無いのに足が障壁で遮られているかと勘違いしてしまう程に重すぎて歩き出せなかった。

 苦い記憶はやはり心の奥にどこか燻っていて、王都に近付くにつれて歩く速度は目に見えて遅い。


 新たな旅人を歓迎する大きな門はシンプルながらも小さく装飾が施されている。

 旅立ちと敗走を経験し、また帰還をした。もう見慣れてしまった門に何の感情も湧いてこない。

 使命に反して帰還を中止にすることなどラインハルトには理解できない類なのだ。

 前よりかは足取りが軽くなった利き足を眺めながら、嫌な成長を確認するのだった。


 

 ラインハルトにはあずかり知らぬ事では合ったが、王都の民は商人や旅の流れ者のお陰で憤怒の「マルス」の撃退を知っていた、色欲に関しては焼却された町に生き残りがいなかった為撃破の報は伝えられていなかったが、それでも知っていたという事実は覿面だった。


 その為ラインハルトが今回王都に戻った事は、周囲からは「勝利の凱旋」だと映る。重い足取りで向かう勇者には知り得ぬ情報だった。

 門をくぐった時、町の隙間という隙間から歓呼の声が絶え間なく広がる。


 「勇者様の凱旋だ!」

 「英雄ラインハルト!」

 「国の至宝、我らが英雄!」


 声の壁が迫る様に、勇者達に降りかかった。


 「こっちも凄いですね……」

 「ハルトってやっぱり勇者なのね」

 「勇者さんはいつも街に行ったらこんななのか?」

 「いや……なんだこれは‥‥」


 民衆の感情の手の平返しに困惑したラインハルト、だがそのことを声を大にして反対する程の子供ではなかった。

 歓声の渦に囲まれながら勇者一行は王城を目指す。


 その日「腰抜けのハルト」は「不屈のハルト」へと呼び名が変わる。


 だが栄誉ある二つ名を授かった勇者の顔は、臭いものでも食べたかの様に笑顔から隠し切れない嫌悪の感情を作り出していた。市民の逆転したお出迎えに困惑し、胃の中で噛み砕けない感情を消化出来ずに、口から苦い液が漏れ出ては我慢して呑み込んでいた。


 



 王都「ハルザ」に到達して、みんなはラインハルトの進む道を一緒に歩んでいた。


 「ねぇハルト何処行くの?」

 「そうですね聞いてませんでした」

 「勇者さんは城に行くのだろう?」

 「そうだ、サラの言う通りだ」


 三人は山の上にある絢爛な城を見上げて思う。


 「……待ってハルト! 服着替える!」

 「行って見たかったんですよねぇ……早く行きましょう!」

 「城………宝の山……じゅるりっ」

 「おい待てユリア! 何処に行く! あとサラはよだれ垂らすな!」


 王城に三人を入れるつもりがなかったラインハルトだった、本来は近くの場所に宿を取って自分だけ報告に上がろうと考えていたのだ。


 「どうするか……三人共王城へ拝謁させるべきか」


 ラインハルトは悩んでいたが、自分がこの三人のお陰で使徒を倒すことが出来たと、後ろめたい感情を抱えていた事は事実。


 「私が使徒を倒したのはみんなのお陰だ、王に報告しないのは不義に当たるだろう……」


 きっと待てと言っても聞かないだろうことは明白、ならばと真面目なラインハルトは三人を王城へ共に連れ寄ることを決めるのだった。




 ユリアの提案により三人は自身の服を買いに一日を費やした、取った宿では勇者だと気づくや否や過剰なサービスが公然と行われ、勇者はまた自分の孤独感を感じる。

 落ち着く暇もなかった勇者は一人で民衆の相手をしながら明日の王城拝謁の件について真剣に言葉を選ばなければと真面目に考えるのだった。



 そうして一日休んだ四人は王城に到達する。

 近くで見るとやはり隔絶された雰囲気を放っている。

 入り口を守る兵士達から声が掛かる。


 「ラインハルト様」

 「隊長殿! お待ちしておりました」


 門を守るは昔に所属していた騎士団の同僚たち、王都が平和なことに安堵しながらも、ラインハルトの数少ない知己朋友に出会えたことで格好を少し崩した。


 「お前たちが守っているなら王都は安全だな」


 ラインハルトは言って少し笑う、自分の昔を思い出したのだ。真っ直ぐで自分を信じていたあの時代に。

 目の前のかつての同僚が羨ましく映る、勇者の焦燥感は火がつく様に燃え上がり広がっていた。


 「昨日に嘆願した様に王への拝謁を頼む」

 「分かっていますよ、貴方の使徒撃破の報、この王都でも有名ですよ」

 「そうか……よかったのかと言えば良いのかな?」

 「何をおっしゃいます、偉業でございます。胸を張って下さいませ」

 「ありがとう、私は部下にみっともない姿を見せる訳にはいかないのでね」

 「私は貴方の部下であって誇らしさしか感じませんでしたよ、さぁ! 国王陛下がお待ちです、お急ぎを」


 例えそれが綺麗なお世辞であっても勇者の心は幾分か晴れた。

 より軽くなった足取りでラインハルトは国王への謁見を賜る。


 王の間で国王からの無理難題を押し付けられる事も知らずに。


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