第13話 色欲の使徒「レイネシア」。
クリックありがとうございます。
長編もちゃんと書いてます
アレクはサラとユリアに協力を仰いだ、二人とも仕方無しに同意する。
「仕方ないわね」
「まぁ大賢者さんが言うなら……」
二人共似た者同士なのは気付いていないのだろうか、アレクはそうゆう機微には疎い為何も気にせずに話を続けた。
「サラ姉のお宝を貸して欲しいんだ」
「私のお宝?」
「うん、マーメイドの涙」
「なんでなんだ? 理由が知りたい」
「分かった、ユリ姉も聞いて。今から作戦を伝える」
アレクは自身の考えている作戦を打ち明けた、その作戦はあまりにも無謀で突飛な発想に二人からも横槍が入る。
「無茶よ! 坊や何考えてんの!」
「そうだ、糸使いの言う通りだ! 無謀だ!」
アレクの考えていた事はリスクの大きい事だった、それでもやる価値があった。
「大丈夫だよ! いざとなったらユリ姉が助けてくれる」
「全く……勇者よりも手が掛かるわ」
三人は作戦を開始する、色欲の使徒レイネシアへの反攻が始まった。
「うふふ、勇者の身体は逞しくて惚れ惚れするわ」
レイネシアは、誘惑した勇者の身体を堪能する。
手を身体中に這いずり寄せ、その反応を確かめて魔力の流れをコントロールしていた。
「やはり勇者の魔力は美味しいわ、ふふっどこまで絞れるかしら」
「あっ、、あ……あっ」
為すがままに魔力を吸収されている勇者、魔力が吸収されていなかったら世の男性が羨ましがるだろう。
だが見る見るうちに肌から魔力が漏れてき血色が悪く変色しているのが目に見て分かる、これ以上魔力が吸収され続けて行けば命が危なかった。
「色欲のお姉ちゃん! 勇者様を放せ!」
勇者の醜態をこれ以上見たくなかったアレクは、レイネシアの気を引く様に一人だけで真正面に立った。
ミッドガルドの領域ギリギリの場所に立ってただ叫ぶだけだった、一歩でも入ってしまえば魔力を吸い取られる魔の領域、いくら膨大な魔力を有している大賢者でも博打に出るだけの覚悟はなかった。
レイネシアにそう誤解させることが計画だった、アレクは領域を広げないレイネシアの能力を見て、推察がほぼ正解だと言うところまで確認が取れた、後は残りの二人と自分の役目を正確に遂行するだけだ。
「あら、大賢者。憤怒を倒した張本人のお出ましね」
レイネシアは憤怒がこの子供によって倒されたことを知っていた。無詠唱に天才的な思考能力。
マルスを倒されたと報告を受けてから彼女はこの大賢者こそが警戒すべき存在だと注視していた。
「悪いけど、私は憤怒のようなヘマはしないわ。貴方にこのミッドガルドを超えることが出来て?」
自分の能力を知り、さらに慎重に相手の様子を伺っていた。
対して威勢良く出て来たアレクは、固まったまま動かない。
「そこに突っ立ってても意味はないわよ、私を倒したいのなら入って来なさいな。歓迎してあげるわ」
「その必要は無いよ」
「……何を言ってるの?」
一体何がしたいと言うのだろうか、だた領域外でギリギリに突っ立って何もしていない。そんな間抜けなことがあるの?
……いや、そんなことがある筈がない。仮にも大賢者の称号を持つ子供なんだ、私の知らない所で何かをしている筈。
「そういえば、残りの二人が居ないわね。どこに行ったのかしら」
「悪いんだけど、話す事はできないね」
絶対にこの少年は何か仕掛けてくる、それは確信にも近い信頼だった。
現在姿を現していない残りの二人を注意深く探す。
「色欲のお姉さん、お姉さんの能力って無敵じゃないよね」
「……何言ってるの? 全てを吸い尽くすこのミッドガルドに弱点はないわ」
「それって、お姉さんが認識していれば……だよね?」
「……!」
まさか! 認識外から攻撃してくると言うの?
レイネシアはアレクの発言に動揺した。だが分からない、認識外の攻撃なんてあるのだろうか。
「ふふっ、ハッタリね良い度胸だわ」
口では余裕を見せながらも警戒心を引き上げた、確かに認識外の攻撃には弱い所があった。
だから常に自身は真ん中に居を構えて居たのだ、弱点を突く隙などなかった。
レイネシアの警戒を見てアレクの作戦の大半は実は成就していた、あとほんの少しの時間稼ぎ。
アレクの周辺の緑はより深く深緑から深淵の漆黒へと移り変わっていることにレイネシアが気付いて居なかった。
「ふふふ、不毛な睨み合いね」
ただ一つアレクには勇者がどんどんと弱っていく姿だけが計画外の心配事だった、意図に気づかれてはいけない、しかし時を進めて勇者の救出を優先しないといけない場面でもあった。
ついにアレクは決行する、わざわざ右手を前に突き出して相手分かりやすいようにジェスチャーする。
少年の魔力が高まる、強大な魔力をその身に宿し始めた。
「行きますよ……フレイヤ!」
全体を覆う炎の上級魔法を唱えた。違和感しか無い、無詠唱を行使できる大賢者が唱えたのだ。
それが合図だった、一斉に三方向から攻撃が始まる。
「……! 三方向から?! それが大賢者が出した答えって訳ね」
レイネシアは笑って居た、確かに攻撃の合図から二人の攻撃は感嘆するレベルだった。
何しろ音がしなかったのだ、無音からの攻撃。常人ならば躱すことが出来なかっただろう。
しかしレイネシアの警戒心も大概おかしい物だった。魔族の身体能力の高さは人間に比べて桁違いだと言うことがよく分かる。
「私を甘く見過ぎだわ!」
後ろから攻撃してきたユリアとサラをレイネシアは大きくバックステップして攻撃を躱してしまう、逆に二人にはミッドガルド領域内に入った事で魔力を急激に吸い取られた。
「あぁ!」「うあっ!」
無様に二人はレイネシアの前に転がり出た、レイネシアは作戦が失敗に終わったと安堵し、その口角を上機嫌に上げた。
だからだろうか、二人の後から遅れて落ちて来た物に首を傾げた、レイネシアはその存在を知らなかった。
「……何これ剣かしら?」
「おうよ、嬢ちゃん見事に罠にハマったな」
「何!?」
レイネシアの近くに落ちたのは聖剣だった、そしてその聖剣には石が括られていた。
アレクは自分の作戦が成功したことに頬を緩める。
その表情を見て一体どんな罠にハマったと言うのかとレイネシアは困惑した。
「なんで? なんで笑っているの? 何をしたって言うの!」
アレクは詠唱をする前からずっと魔力を垂れ流していた、それこそ目の前の緑が真っ黒に変わってしまうほどの濃密な魔力を。
レイネシアは気付いていなかった、目に見えないほどに伸ばされた糸の存在に。
「マーメイドの涙って知ってる?」
「……何よそれ、知らないわよ!」
「じゃあ教えてあげるよ、魔力を無限に吸い取るアイテムだよ」
「それって……」
思わず剣に括られている石を見た、七色に輝き石に膨大な力が集まっている、いや吸収が始まっている。
「お姉さん、そこの剣は聖剣って言うものでね。その石の効果を加速度的に上昇させるんだ」
「……いや、そんな! なんで触れてないのに発動してるのよ!」
「触れてるよ、お姉さんには知覚できない程に細い管がね」
「分からない! 早くこの剣を離さないと!」
そういってレイネシアは剣に触れてしまった、大賢者が親切にも繋がっていると言っていた、その聖剣に。
「お姉さんって意外と人の話を聞かないんだね。まぁどちらにしろ一番近いお姉さんが最初に魔力が枯渇するんだけどね」
「が………あ………そ……ん‥‥‥なぁ」
聖剣につながった小さな糸の先にはアレクの存在がいた。
ずっとアレクは魔力を垂れ流していたのだ、魔力の空きを作り出すために。
その放出した魔力を補おうと急激な速度で魔力が大賢者の中に流れてくる。
「認識外からの攻撃にはやっぱり弱いみたいだね、お姉さん」
三方向からの攻撃は、この魔力の吸収から目を反らすために行ったフェイクだった。
これは賭けだったが、ミッドガルドは家一軒分以上に範囲を広げることができなかった。
作戦を試す前提として範囲を更に広げられる可能性を捨て切れないでいた。
だがそれは聖剣イフタフと話すうちに、大勇者が使用した時の状況から指定範囲外は伸ばせないと推測した。
バリアも半径1Mの様に限界領域があったのだ、そしてその予想は当たっていた。
それに気付かずに哀れなピエロを演じた色欲の使徒「レイネシア」は、指一本も動かせない程に魔力を吸い取られて無様にも敗北に帰すことになった。
もうビクとも動かない色欲の様子を見て三人はやっと安堵の溜息を吐いた。
「一時期はどうなるかと思ったわ」
「全く、大賢者さんは大胆だな」
「えへへ」
三人は拘束されていた勇者ラインハルトの元に行く。
「なんかこいつ、嬉しそうな顔してない?」
「そうですか?」
「まぁさっさと封印してもらおう」
幸せそうな顔で気絶している勇者の腕をレイネシアに近づけた。
すると憤怒の時の様に虹色に光って、色欲の身体が同じ様に消えていった。
「あれ、これって自動で発動するものなの?」
「本当ですね、知りませんでした」
「これ勇者さんいるのか?」
勇者の封印術が紫色に一瞬光った。
「……これで勇者様には『収穫(Harvest )』が宿ったはずです」
「なんか、とても見ていられない光景ね」
「勇者さんが起きるまでここで休憩しましょう」
「そうね、そうしておくのがハルトの為だわ」
サラの言葉にユリアが応じた、色欲と戦う内にいがみ合いが無くなっていた。
「今回の戦いで貴方の音消しの能力、すごいと思ったわ」
「それはこっちの話よ、私だって糸使いのこと馬鹿にしてて申し訳なかったわ」
向かい合って笑い合う二人を見て、アレクはやっぱり放っておいて正解だったと一緒に笑い合うのだった。
名前 ラインハルト・ミュラー
職業 勇者
ステータス レベル95
HP 985
MP 273
ATK 865
DFE 786
INT 342
AGE 564
称号 剣聖 光の任命者 王国の守護者
光魔法レベル1 分散 (ディスパーション)
解放能力 バリア【障壁】(Barrier)
ハーベスト【収穫】(Harvest)
隠しスキル 奮起する魂 (ブレイブハート)