第1話 最弱にして最強の男誕生!
初めての長編作品です、10万文字超えたらHJ大賞に応募します。
読者の皆様には最大限楽しんで頂けるように考えて書きました。
不安ばかりが募りますが、この作品を開いて下さった皆様を退屈させない様に頑張って参ります。
視界が暗転する、暗き瞳の裏から覗き込むように段々と僅かに漏れる微光。目覚めの証。
「………ぁ」
呻き声は狭い部屋にはよく響く、自分なのに自分だと信じたくない反響音が寂寥感を襲う。
少年は子供と言って良い容貌をしていた、傷一つなく完璧で、それが異質な事だと気づく。
「僕は、蘇生したんだ……」
天井からは自然の明かりに照らさせて埃一つない、真っ白な空間。
子供の頃から見慣れた場所、そこは教会の蘇生の間だった。
だからこの結果は少年にとって祝福されるべき事象だったはず。
なのに居た堪れない虚無感に襲われながらも必死に未覚醒の体を起こそうともがく、傍らには一人の神父がいた。
「やっと戻って来おったか……英雄よ」
英雄と言われ少年の瞳から涙が溢れてくる、失敗だ、自分は取り返しのつかない失敗を冒したのだ。
「……おじいちゃん、僕は助けられなかった……おじいちゃん!」
おじいちゃんの温もりにしがみつく、そうしなければ自己の存在を認めるわけにはいかなかった。
夢であれば良かった、だか少年が知覚した温もりがこれでもかと言う現実を明瞭に伝えていた、だから抱きつきながら耳を塞ごうとする。
これ以上の情報を遮断してしまいたかった。
そっと優しい皺だれた手が少年の頭へと載せられる。しかし何時もと違った優しいのにどこか讃える手つきに違和感を覚える。
少年は違和感からおじいちゃんの話に耳を傾けてしまう。
「アレクよ……お主は真に英雄となったのだ、伝説として語り継がれる英雄の一人として」
小鳥のさえずりが聞こえてくる清涼とした朝の一幕。
田舎の教会で、安らぐ様なおじいちゃんの暖かい掌の温もりを感じながら、少年はその言葉の意味を直ぐに知ることになる。
これは豆腐の角で死んでしまう程の貧弱で、一人では外に出る事も出来ない、無名にして天才の少年が歩んだ誰も想像すらしなかった伝説のお話。
そんなお話の主人公である僕の自己紹介をしようと思います。
僕の名前はアレク・クリューエルと言います。
髪の色はブラック、目はコバルトグリーンを持つ何処にでもいる様な少年です。
容姿は母親譲りで童顔、子供が童顔でさらに子供っぽく見られます、可愛らしい顔とお母さんは喜んでいます。
冒頭でも話した様に、僕は最弱なんて生温いほどに弱いのです、この世の中にはステータスが存在して居る。
体力・魔力・攻撃など人間の基礎能力が数値として分かる世界。
そんな中で僕のヒットポイントは悲しいことに。
HP1なのだ。
僕は生まれた頃から人よりも虚弱だった、赤ちゃんとして生まれた時最初に抱かれるのはみんな誰だろうか?
みんななら母親と答えるだろう、だが僕は違った、最初に抱かれたのが神官のおじさんだった。
母親から生まれる際お腹から出る衝撃で昇天してしまった。
人類史上最速の死亡記録である。
そんな僕だから毎日毎日が死闘だ、朝起きた時のベットからずり落ちる衝撃で死ぬ。
階段をコケると死ぬ、喉を詰まらせると死ぬ、ドアに小指が挟まると死ぬ。
家の中にいてもこの有様、外に出ようものならそこは死のパレードだ。
パンをくわえながら曲がり角でぶつかると待って居るのは恋の始まりではなく死の始まりだ。
幼い頃から死と隣合わせだった僕は自然と家にいることが多くなり本棚の本を読むのが日課になっていった。
本には英雄たちが悪の魔王を倒す物語や、世界を股に掛けて盗みをする大盗賊のお話。
農民の出から大商人になった立身出世物語、色々な本を読み込んだ。
その中でも取り分け大好きだったのが魔法の本だった。
自分にも何か出来る事はないか?そう本を読んでいくうちに物語の英雄達みたいに成りたいと思うのは子供のよくある話だった。
幸い僕には魔力があった、それも人よりも優れた能力があったのだ。
その事は幸いだった、本を読んで魔法を試して、分からないところがあったら死んで教会の神官に聞く。
そんな毎日を過ごしていた僕は人よりちょっとだけ、そうちょっとだけ魔法が上手くなっていた。
いつからか僕は憧れるようになった、英雄たちと同じように魔王を倒す勇者の一人になりたいと。
決意した日からますます少年は魔法にのめり込むようになる。
その様子を見ていた両親も決して安くない魔法の書を買ってくれた。
入門、初級、中級、上級。
どんどんと自分の魔法が多くなっていくのが嬉しかった。僕は自然と魔法の深淵に近づいていた。
上級を読破した辺りから自分のオリジナルの魔法を作り出すようになった。
魔法は思考力が大事なのだ、上級しか魔法の書は存在しなかったが僕はその先へと到達してしまっていた。
そうして毎日瞑想をする様になった、魔法を極めたのが10歳の時である。
周りには友達と元気にはしゃぎ遊びまわる同年代がいる、そんな中で僕は一人だった。
原因はそう、僕のHPが『1』しかないせいだ。
虚弱すぎる身体は僕を臆病にし、外への関係を絶ってしまっていた。
そんな10歳の時両親から話しかけられた。
「あなたも今日で10歳、教会で職業の選定式がある筈よ」
そう運命の時がやって来た、10歳は教会で自分に何の適性があるかの儀式があるのだ。
「分かった、じゃあ行ってくるよ」
「えぇ気を付けてね、教会までにどんな危険があるか分からないわ」
「大丈夫だよ母さん、教会へはすぐいける」
「すぐいけるって……あらまぁ」
手を振りながら僕は部屋の天井にある金のタライを自分に落とした、僕の発明した簡易教会転移である。
「いくら蘇生ができるからって……複雑な気分になるわね」
そう母親が呟いたのを知らずに教会へ転移した、蘇生にはちゃんとデメリットがある。
レベルの消失。
死んだ時レベルが減少するのだ、それは当然レベルが上がればステータスが上がりそれだけ強くなる。
死ぬ事は弱くなることを意味した、当然元のステータスに戻すのは困難になる。
アレクには関係がなかった、もともとがレベル1だったからだ。
レベル2に到達したこともあった、魔法の修行中経験が積まれてレベルが上がったのだ。
喜んでその場で神官に鑑定してもらった、結果は変わらずの『1』。
その時に吹っ切れた、もうレベル1でいいやと。
それからは便利なのでこの簡易教会転移を使用している、なかなか便利で使い勝手がいい。
転移した時みんなが集まっている中で一人だけ蘇生の間から出たから驚かれた。
同年代の子供たちである、まだ話したことも無いので正直怖かった。
「なぁお前見ない顔だな?名前なんて言うんだ?」
「ぼ、僕の名前はアレクっていうんだ、一応この町にずっといるんだけどね病弱で」
「ふーんそうなのか、アレクよろしくな!」
そう言って僕の背中をバシンと叩いた。
あ、イク!
・
・・
・・・
「全く、アレクは本当に弱いな」
「あれ? あぁまた死んじゃったんだね」
初めて友達が出来ると思ったのに死んでしまうなんて、情けない。
「おじいちゃん、儀式はもう終わっちゃった?」
「おじいちゃんと言うでない! ……まぁ生まれた頃から面倒見ているからしょうがないか」
「それでどうなの? もう終わっちゃったの選定式?」
「まぁなアレクが眠っている間に町の子全員終わったよ」
「そんな……僕はもう選定式受けれない?」
「別に焦らんでも選定式は10歳以降なら何度でも受けれるぞ?」
「そうなの? やったー! じゃあ早く早く!」
「おいおいそう焦るでない! また死ぬぞ!」
そう言っておじいちゃんの皺だれた手が自分の頭に乗せられた。
おじいちゃんの口から選定式の儀式の祝詞が唱えられる、僕も知ってる、だから復唱した。
——祝福の鐘の音よ、輪廻を与えし神の慈悲に感謝します、我らは世界の調停者として歯車の一部とならん事を——
僕はおじいちゃんのこの手で頭を撫でられるのが好きだった、だからだろう最初の呟きを聞き逃していた。
「……だと?! ……そんな」
「なんか言った?」
「アレクにはきついだろうて……」
「おじいちゃんどうしたの?」
「あ……あぁ」
何処と無く落ち着かない雰囲気を漂わせてわさわさとぎこちなく動き回るおじいちゃん。
僕の職業が一体どんな職業だったのか不安が募った。
「おじいちゃん落ち着いて? 僕そんなに悪い職業だった?」
「う、うむすまんなアレク、悪い職業って訳ではないのじゃが」
「教えておじいちゃん! 僕は何の職業に選ばれたの?」
「……これも神の思し召しなのだろうか、仕方ない……アレク、お主の職業はな」
そう言って真剣な表情でおじいちゃんが僕を見ながら話してくれたのだ。
——アレクよ、お主の職業は『大賢者』だ——
この時より最弱にして最強の大賢者が生まれた。
名前 アレク・クリューエル
職業 大賢者
ステータス レベル1
HP 1
MP 測定不能
ATK 3
DFE 2
INT 測定不能
AGE 2
称号 無名の天才、求道者、豆腐の角で死ぬ男
一般的なレベル1のステータス
HP 14
MP 8
ATK 10
DFE 12
INT 8
AGE 9
補足 レベル1は産まれてから2ヶ月程度の赤ちゃん。アレクと同じ10歳程度になるとレベルは15〜20辺りまで。
勇者と呼ばれる人はレベル100が大多数、伝説の大勇者と呼ばれる絵本の主人公は120レベルまで到達したと言われている。
無理をしませんが毎日投稿を目安に頑張ろうと思います、よろしくお願いします。