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無数の機関銃が見下ろす中、公園を散歩するかのようにゆっくりと、その男に近づいていく。
近づくに連れぼやけていた顔も細部まで鮮明に見えてくる。
幽鬼のような印象は、顔がはっきりするとより強くなった。
不健康で青白い肌。肉付きも悪く全体的に骨ばっている。目もぎょろりと飛び出しており、ムクロとは違うタイプの死人に見えた。
有難いことに歩いている最中に機関銃がメロディを奏でることは無く、俺の足音だけが廊下に響く。
男との距離が数メートルまで近づいたところで、俺は右手を上げ、「よう」と声をかけた。
「たぶんお前あれだろ。池上だか池森だか。この施設にいる中でもトップクラスにヤバいって毒草。確かプッツンするとめっちゃ暴れだす上に、その暴力性が周りに感染するとか何とかって言う」
直前に南方も言っていたが、この状況下で外界と施設を結ぶ最重要ポイントに配置される人物が雑魚なわけがない。施設から外には出られない、出るにしても多大な犠牲を払わないといけないような化け物を、俺だったら配置する。
そして神月からこの施設にいる中で特にヤバいと教わったのは三人。そのうちの一人は女で、もう一人は三十過ぎのおっさんだそうから、必然的に残りの一人なんじゃないかと推測できる。
まあそれだけの推測とも呼べない、ただの当てずっぽうだが。
しかしこういう当たる必要のない推測ってのはよく当たるもので。男は聞いたことのある名前を名乗ってきた。
「僕は、池田守だ」
「ああそうそう。そんな名前の奴だ。で、俺たちここから出たいんだが、通っていいよな」
良識ある一般人らしく、まずは暴力でなく話し合いを試みる。
こいつは怒ると手が付けられなくなるらしいので、丁寧な対話が一番の対抗策になるはずだ。
池田は陰鬱な表情のまま、「理由次第だ」と返してきた。
「理由? そんなもんこの最低最悪の地獄から早く脱出したいからに決まってんだろ」
「つまり、この施設の外に出たらそのまま――」
「おりゃ」
池田の口上を遮り、俺はその顔面を全力でぶん殴った。




