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「二つ目は、安楽音に服従することだ」
「は? のっけから絶対ない選択肢だぞ、それ」
「いいから取り敢えず話を聞け」
気色ばむ俺を睨みつけ、南方はゆっくりと立ち上がった。
「ことこの状況においては、安楽音は僕たちの味方ではないが、敵だとも言い切れない。そもそも僕たちは施設側の人間として、囚われの職員を助けるためにやってきた。だが、既にその任務は破棄されたと言っても過言ではない。となれば安楽音が僕たちを襲う必要はなく、必然的に僕らが争う必要もない」
「そりゃそうだが、安楽音が襲ってこないとは言い切れないだろ。つうか実際襲われたわけだし」
「だが、殺されてはいない」
「ああ……そういや殺す気はないみたいなことをムクロも言ってたな。てっきりムクロを殺したくないだけかと思ってたが」
「僕らも殺されていない以上、手駒として使えそうなら使ってやるという意思があるんだろうな。勿論次邪魔をすれば、今度は確実に殺されると思うが」
「ちっ、なんか見下されてるみたいで腹立つな」
とはいえ俺たちと安楽音では明確な上下関係が築かれているのは事実だ。あっちは殺そうと思えばいくらでも俺たちを殺せる。だがこっちは対抗手段どころか、そもそもこの施設から出られるかすら安楽音の采配次第だ。
腹は立つし納得もできないが、一つ目の選択肢を取らず外に出るつもりならこの手しかない気さえする。
俺は苛立ちから頭を掻きむしった。
「二つ目までは分かったよ。で、三つめは何だ。この流れだと神月が戻るの待って、施設管理側の奴らと連携して『毒草』の鎮圧をするとかか」
さっきの南方の話だと、神月は綾崎を追って一人先行して施設の奥に向かったらしい。その後方で毒草を鎮圧している最中、急に松原が南方を襲撃。多少の手傷を負ったものの俺と違い気絶をしなったこいつはすぐに松原を追ってきて――今に至るとか。
つまり神月は少なくとも松原には襲われていないことになる。とはいえ施設奥にいる他の毒草や綾崎と戦って無事でいられるかは不明だ。いくら待ったところで帰ってくることはないかもしれない。
だったらまずは俺たちが神月を助けに行くか、と考えたところで、南方の「違う」という声が耳に届いた。
「違うのか? じゃあどうすんだよ」
南方は首をコキコキと鳴らしながら、
「無論、全員倒すんだよ。視界に入った奴は片っ端から殴り倒すんだ」




