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「すまん皆。外から連絡だ」
そろそろカートに載せんのも厳しくなってきたなと考え始めた頃。唐突に神月が立ち止まった。
外部との連絡を行うために持ってきていた通信機に反応があったらしい。
通話を始めた神月を守るよう、神月を中心に円を作って各々周囲を警戒する。
俺も周囲に目を光らせつつ、この状況で一体どんな連絡が来たのかと神月の声にも耳を澄ませておく。けれどそんなことをする必要はないほど張り詰めた声が、すぐさま全員に届いてきた。
「おい、それは本当か? こっちは今のところ誰一人として見逃してはいないはずだが」
あいつがここまで緊迫した声を出すなんて、よほどやばいことがあったのか。
俺は改めて周りを見渡し誰もいないことを確認すると、円から外れて神月に近寄った。
「すでに被害が出ている? いや待て、仮に俺たちをやり過ごしたとして、どうやって外に出たというんだ。いくら強力な『毒』を持っていたとしても、扉を突破するのは不可能なはずだ」
『それが、どうやら内通者がいたみたいなんです! 気づいたときにはなぜか扉が開いていて!』
「落ち着け! 被害が出ているなら『毒』の種類にも見当がついてるんじゃないのか。一体誰が脱走した」
『み、皆、目を覆ったり耳を閉ざしたり鼻をつまんだり――五感に影響していることから見て、脱走者は………………』
「おい、大丈夫か! 返事をしろ!」
急に通話相手の声が聞こえなくなる。
神月が何度も怒鳴るように話しかけるが、全く返事は返ってこない。
この時になると、俺以外の奴らも異常を感じたのか、皆神月の近くに寄ってきていた。
しばらくしても返答がなく、神月は諦めたような声を漏らす。
そしていったん通信を切ろうとした直後――
『お久しぶりですね、神月さん。またお声を聞けまして、ワタクシ感激しておりますわ』
「あ、安楽音……」
通信機から、脱走者の声が響いた。




