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無駄に長い廊下も残り半分というところ。
緊急事態とは思えない緩慢な歩みで、残り半分も進んでいく。
「……まじで今更だが、もう少し情報くれんのが普通じゃねえか? 俺は現状、ここにやばい奴らがいて、職員を人質に立て籠もってるってことしか知らねえんだけど」
「別に知らなくていいからね。移動中に言っておいたが、『毒草』を相手にする際の基本原則『見ざる・聞かざる・触らざる』を守っておけば、そこまで危険なことはない。逆にどれか一つでも守らなければ、身の保証はできないが」
「それ、要するに身の保証はされないって言ってるのと同義じゃないのか? そいつに同意するのは癪だけれど、僕も詳細な情報が欲しい」
神月の斜め後ろを歩いていた南方が、不機嫌そうに話しに加わる。
男二人からじっとりと見つめられ、神月は嫌そうな顔を浮かべて小さく溜息をついた。
「正直さ。それを教えた所でどうにかなる相手じゃないから、君たち『毒消し』を頼っているわけだよ。できればそれを察してくれると助かるんだが」
「答えになっていないな。相手がどんな特性を持っているかで対処法は明確に変わってくる。口を塞ぐだけで無力化できるのか、接近せずに武器を使って気絶させた方がいいのか。相手を知っているかどうかは――」
「駄目だよう南方キュン。あんまり神月ちゃんを虐めちゃさあ。彼だって好きで情報を出し渋ってるわけじゃないんだからよう」
なれなれしく南方の肩に手を回し、綾崎までも会話に混ざりこんでくる。
「どうせ阿呆な上の考えでは、この鎮圧劇も『蠱毒』実験の一環にする気だろうからねい。どの『毒草・毒消し』が一番強くなっているのか、施設対抗戦でも行ってる気分なんだろうよう。……全く、相も変わらず人の命を軽んじていやがる」
一瞬、綾崎の声が普段のチャラけたものから、重く冷たいものに変わる。
そのあまりの変化からつい後ろを振り返るも、綾崎の顔にはいつものやけた笑みが浮かんでいた。そしてこちらを見て意味ありげに唇をゆがめると、今度は俺と神月の肩に両腕を載せてきた。
「しかし俺やムクロちゃんはともかく、他のメンツには正直荷が重い相手もいるよねい。神月ちゃん基準でムクロちゃん級に該当する彼らのことぐらいなら、教えてあげてもいいんじゃないかよう」
「……まあ、仕方ないか」
神月は気怠げな様子を隠そうともせず、件の三人について話し始めた。




