62
あと数歩で拳が届く。
そんな距離まで近づいた瞬間、今まで立ち上がろうと必死にもがいていた灰色ローブたち――いや、俺の友人らは、まるで痛みを忘れたかのように動き出し、目の前に壁の如く立ちふさがった。
ただの一般人である俺がむやみに友人を傷つけられるわけもなく、慌てて走るのを止める。
怒りに任せて神月をぶん殴りたい。だがこれ以上友人を傷つけたくない。
両立させるのが困難な二つの命題に挟まれ身動きが取れずにいると、いつの間に来たのか南方が俺の横を通り抜け神月に近づいていった。
当然俺の友人らが南方の前に立ちふさがる。しかし南方は彼らのことはまるで目に入っていないかのように進んでいく。
俺は南方が使用としていることに何となく察しがつき、「おい、ちょっと待て!」と声をかけた。だが南方の動きは止まらない。灰色ローブと顔が触れ合うまで近づき――容赦のない膝蹴りを二人にかました。先のダメージが残っていたせいか、二人はそれに耐え切れず床に膝をつく。南方はその隙を逃さず一人ずつ頭を踏みつけ、その首に指を一本、強く押しあてた。
ビクンと激しく体を震わせ、俺の友人たちは泡を吹いて地面に倒れ伏す。
南方は彼らを軽くつま先で蹴って動かなくなったことを確認すると、すくっと立ち上がり俺を振り返った。
「念のため言っておくが、殺したわけじゃないからな。ちょっと気絶してもらっただけだ」
「い、いや、指を押し当てただけで気絶したりしねえだろ……」
「人間には急所があるんだよ。そして人は強すぎる痛みには意識を失うことで対処する」
それはあいつらが気絶したことへの理由になってねえんじゃねえのか? と俺が口にする前に、南方は視線を神月に戻した。これ以上無用な問答はしたくないというアピールだろう。
実際起こったことに一々疑問を言っても仕方ない。
目を強く瞑り、開ける。
それで気持ちをリセットすると、俺は改めて神月に向かって走り出した。
今度は邪魔してくる者はいない。思う存分にぶん殴れる。
しかし、盾をなくし、猪も斯くやという勢いで突っ込んでくる男――というか俺――がいるにも関わらず、神月は焦った様子を見せない。
微かに迷惑そうに顔を歪ませ、軽く言葉を吐き出すだけ。
だが、俺の動きは神月の言葉を耳にした途端、再びピタリと止まってしまった。




