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これでお供の二人は倒したし、改めて神月との楽しい楽しい会話を再開しようかと彼に目を向ける。だが、もろに俺の拳を受けたにも関わらず灰色ローブはまだ戦意を失っていないのか。ナイフをこちらに向け立ち上がろうとしていた。
あれだけ強く入れば確実に意識はなくなっただろうと考えていたため、いくらか驚いて灰色ローブを見つめる。すると、顔面に拳を食らった衝撃からか、顔を隠していたフードの部分が下に落ち、素顔が拝めるようになっていた。
俺はその顔をまじまじと見つめ――次の瞬間には神月に向かって怒鳴りかかっていた。
「神月てめえ、ふざけんなよ! なんでそいつらが――俺のダチがここにいやがるんだ!」
フードの下に隠されていた顔は、まぎれもなく俺の高校の友人の顔だった。見れば南方に蹴飛ばされた方の男も俺の友人。この意味不明な場所に閉じ込められる前日までは学校で仲良く話をしていた二人。
勿論ムクロや芥川のように狂った思考の持ち主ではない、どこにでもいるごく普通の一般人。百歩譲って――いや、一万歩譲って俺にはこの奇妙な場所に呼ばれるだけの異常性があったとしても、あの二人にはそんな異常性の欠片すら存在しなかった。
なのに、なぜ。あの二人までこの地獄に連れてこられているのか。
今すぐに飛びかかりたい気持ちを必死に抑え、殺気立った目で俺は神月を睨み付ける。
だが神月はこちらの視線なんて全く気にした様子もなく、欠伸を交えながら退屈そうに答えた。
「別に、大した理由なんてないよ。君に殺されかけて些か腹が立ったからね。その仕返しに君が苦しみそうなことをしてやろうと思っただけさ。とはいえ、俺は君らと違って善良な一般市民らしい。こうして仕返しがうまくいっても、さほど喜ばしい気持ちにはならないみたいだ。例えるなら、眠くて二度寝したものの、今度は眠り過ぎで頭が痛くなった状況とでも言おうか」
「……ぶっ殺す」
もはや我慢の限界は過ぎ去った。俺は全速力で駆けだし、神月めがけて拳を振りかぶった。




