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風呂を出た俺達三人は、綾崎の案内の元、大広間の一角に移動していた。
そんな中、さも当然のようについてくる南方を見て、俺は首を捻った。
「おい、何で南方まで付いてくるんだ。お前は綾崎の話とか興味ないだろ」
「別に僕がどうしようと君にとやかく言われる筋合いはないだろう。僕としても彼の話には興味があるし、出られるのであればここから出たい。この場所は好きなだけ本が読めるから嫌いなわけではないが、虫が全くいないからな。昆虫採集ができないのは僕としては大いに不満だ」
「ああ、妙に日焼けしてると思ったら昆虫採集なんてしてたのか。あれって何か楽しいのか? 別に虫は苦手じゃねえけど見てても楽しくなんてないだろ?」
「ふう、これだから野蛮人は。虫がどれだけ奥深く素晴らしい生物なのかこれっぽちも知らないんだな。まあ君みたいな人間には、人以外の生物は食べられるか否か程度でしか区別できないんだろうが」
「少し質問しただけでそこまで言うか、普通? お前も十分に一般的じゃねえだろ。俺と同じ終末に生きてる側の人間じゃねえの?」
「別に否定はしない。僕は小学生のころから毒舌で、子供から大人まで差別なく泣かせていたからな。狂人のつもりはないが、人格崩壊を起こさせた相手になら数人心当たりはある」
「お前馬鹿だろ。『ほどほど』って言葉知ってるか?」
「君に馬鹿と言われると無性に腹が立つな。少し人格矯正してあげようか?」
ピリピリとした一触即発な雰囲気。
それをぶち壊すかのように、陽気な声で綾崎が口を挟んだ。
「仲良く会話してるところ悪いんだけど、どうやらお客さんが来たみたいだよう。あんまり友好的な雰囲気じゃないみたいだし、ちょっと気合入れといたほうがいいかも」
南方から視線を外し、進行方向に目を向ける。そこには、綾崎の言った通りどう見ても友好的とは縁遠い三人の男がいた。




