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人人人皿毒  作者: 禍影
3日目

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 全速力で逃走。

 かつてこんなに早く走ったことがあっただろうか。今の俺ならオリンピックでメダルも狙えるんじゃないかって気がする。とはいえ、こんな緊張だけで一切楽しくない短距離走は二度としたくないが。

 芥川はともかく神月は満身創痍。今の俺の走りについてこれるはずもなく、すぐに二人の姿は見えなくなった。荒い呼吸を繰り返しつつ、徐々に走る速度を緩め、やがて立ち止まる。

 敵にしちゃいけない相手を二人も敵にしていたことを後悔するも、よくよく考えたらこの場に味方なんていないことに気づく。ムクロはぎりぎり味方だったのだろうが、南方にも嫌われてるし、多少話の続いたドクロ女はすでに死んでしまった。水木や綾崎は敵でも味方でもないし……。

 マジで孤立無援。

 涙がこみ上げてきそうになる。泣かないけど。

 呼吸も整い、どこまで走ってきたのかと周りを見渡してみる。すると、運のいいことに知っている場所を発見した。白ばかりの施設においてはかなり特殊な、色彩溢れる植物室。せっかくだから一度、太陽の光を浴びてリフレッシュしよう。そう考え植物室に足を踏み入れた。

 新鮮な空気を体に満たそうと、大きく深呼吸する。

「はー、やっぱりここの空気は格別……って、なんだこの匂い?」

 ふと、心地の良い植物の匂いとは別の、嫌な異臭を嗅ぎ取る。鉄っぽい、最近もどこかで嗅いだことのある匂い。

 眉間にしわを寄せて、俺は匂いのもとに目を向けた。

「……冗談だろ」

 視線の先に予想もしなかったものを見つけて、一人絶句する。

 俺の目に飛び込んできたのは、芝生の上で仰向けになったまま、ピクリとも動かずに眠っている水木。一見初めて見た時と変わらない姿。しかし、彼の胸には深々とナイフが突き刺さっていた。ナイフが突き刺さったままだからか、そこまで大量の血は出ていない。それでも、腹を伝って芝生まで染め上げているその血を見て、彼がすでに死んでいることは十分過ぎるほどに伝わってきた。

 ふらふらとした足取りで、水木の死体に近づく。

 死んでいるとは思えないほど、安らかな寝顔。ただ、その顔は生気を感じさせないほど白く冷たくなっている。

 こんな場所だから人が殺されていることに格別驚きは感じない。感じないが、それでも目の前の現実を受けとめることは容易ではなかった。

 一度話しただけだが知っている。水木は人に殺されるような、恨みを買うタイプの人間ではなかった。あいつも己の『毒』によって人を殺していたのかもしれないが、完全に無自覚の行い。もし彼に殺意を持った人間がいても、彼の本性を知れば殺すのをやめてしまうだろうと言った人物。

 そんな水木が、ナイフを腹に刺されて死んでいる。

「この場にわざわざ水木を殺そうとする人物なんて――」

 自分の呟きから、ふと最悪の考えが頭をよぎる。

 その想像が事実でないことを祈りつつ、俺は部屋を飛び出した。


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