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人人人皿毒  作者: 禍影
2日目

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 今更過ぎるだろ!

 そう怒鳴りつけたいが、意識をうまく操れない。目の前にいる少女の存在に全てが釘付けになってしまう。

 これが、ここに十年間住み続ける人間。蠱毒実験の発端かもしれない少女。

 何も言えず、何もできず、聖母のような少女を見続ける。すると、聖母は震えた様子で、しかし大いなる慈愛を含んだ声で、俺に告げた。

「こ、ここから今すぐ立ち去ってください。私の傍にいては、あなたも死んでしまいます」

 全身を大いなる慈しみで包まれるような錯覚。心の中から、正体不明の感動と感傷が込み上げ――究極の真実を悟る。

 生きとし生けるものは全て、彼女のために生まれ、彼女のもとに還る定め。絶対の母なる慈愛を持つこの少女のために、命を捧げなければならない。

 両手が、気づくと自分の首にかかっていた。そして、少しずつその力を強めていく。

 徐々に息が苦しくなっていく中、頭の片隅にギリギリ残っていた理性が、最後の力を振り絞って口を動かす。

「ム……クロ…………。俺に、何があっても生きるよう……、頼んで………く……れ……」

 その言葉を機に、最後の理性も消え失せ、聖母のもとに還ろうとする帰巣本能だけが体を支配した。

 もはや息もできないほど首に力がかかる。そろそろ意識も失われそうなのに、手に込める力が弱まる気配は全くない。

 ――これは、もう死ぬしかないな。

 生きることへの執着心が完全に失われ、意識がどんどん暗闇に落ちていく。

 もはや視界が真っ黒に塗りつぶされた中で、紫色の何かがゆらりと動くのが目に映った。

 そして聞こえる、死神を彷彿とさせる何の慈しみもない声。

「睦雄さん、あなたが死ぬと私は悲しいので、自殺しないでください」

 その声が耳に届いた瞬間、全身から力が抜け、俺はその場に倒れ込んだ。


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