42
てくてくとウサギの人形を引きずりながら歩くムクロの後ろを、俺はぼんやりしながらついていく。
つい神月の発言に苛立ち、この施設を作ることとなった元凶――かもしれない少女と会話したくなった二分前。その瞬間から二分経ち、なんとなく落ち着いてきた俺は絶賛後悔中だった。
――なんで会いたいとか言っちまったんだろ。
運よく南方や水木、綾崎とはそんな危険なことになる前に話を終えられた。しかし、これから会おうとしているのは、おそらくこの施設に存在する最狂最悪の化け物である。
まあここから出るためには勿論会う必要のある相手だろうし、準備や対策だってどうせ大したことはできない。だから別にいつ会ってもいいと言えばいいのだが、勢いだけで会うとか決めてしまったのはどうなのか。せめてもう少し心の準備をしてから挑むべきだったんじゃないか。今更ながらグダグダと会いたくない気持ちが溢れてくる。
そんな思いを抱えつつ、俺は改めて目の前で紫のツインテールを揺らす少女に目をやった。
やっぱり会うのはやめた、と言えば、おそらくムクロは反対などしないだろう。だがいくらこいつが見た目も中身もヤバい奴だとしても、俺のわがままに何度も何度も付き合わせるのは流石に気が引ける。
もう腹をくくるしかない。どうせこんなことを考えてるうちに、マリアのもとに着いちまうだろうし。
そんな考えを見透かすかのように、タイミングよくムクロは立ち止まった。
急に立ち止まったムクロに追突しそうになり、慌てて後ろに体を引く。が、兎の内臓を踏みつけてしまい、盛大にスっ転んだ。
そんな俺をうつろな目が不思議そうに捉える。
「何をやってるんですか睦雄さん。着きましたよ」
「お、おお。ここにいんのか……」
俺たちの目の前には、他の部屋にあったのと同じドアノブだけがついた真白な扉。
しかし、その先には十年以上ここに住むという化け物がいる部屋がある。
俺は覚悟を決めてドアノブを掴むと、一息に開けた。
「な……」
開けた直後、目に入ってきた部屋の光景に言葉を失う。
白ばかりの異空間にあってなお、それをまだましだと思わせる異常性を醸し出す部屋。
他と違わず一見白で覆われたその部屋は、床以外の全てが鏡張りの部屋だった。




