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気絶した神月に背を向けて、ムクロと別れた場所まで戻る。
すぐに、この白い建物では目の付きやすい紫色を発見し、そいつのもとまで歩み寄る。
奴隷を置いて一人帰ってきた俺に疑問を抱いたのか、カタリと首を傾げて紫――もといムクロが言った。
「思ってたより早いお帰りですね。私の奴隷はどうしたんですか。やっぱり殺しちゃいましたか」
「……別に殺してねえよ。ただストレス発散に一発殴って放置してきただけだ」
「成る程。なら一人でも仕方ないですね」
うつろな目で、カタリと頷くムクロ。
相変わらず異常なまでの薄気味悪さ。ただ、同じ殺す発言でも、なぜかこいつの「殺す」にはそこまでの嫌悪を覚えない。ただ無邪気に、場合によっては意味すら理解せずにそのことを言っているからだろうか。……まあその分、嫌悪はしなくてもとにかく気持ち悪いと感じるのだが。
やっぱりこっちも俺のいる場所じゃねえなと思い、大きくため息を一つ。
ため息のついでに弱気も追い出し、先延ばしにしていたある問題を片付ける決意を固めた。
「なあムクロ。予定は変更して次はマリアって女を紹介してくれ。少し話してみたくなったんだ」
「それは全然構いませんが、理由を聞いてもいいですか?」
「理由はない」
「はあ、分かりました。ではまた付いてきてください」
小さく頷き、渋ることなくマリアの元へ向かい始める。
こんなうつろな目をして内臓の飛び出た兎を抱えた少女なんぞ、全く好きじゃない。と言うか気持ち悪いし関わりたくない。
が、こうして文句もなく俺の言うことを聞いてくれる点だけは、感謝してなくもない。




