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この施設にいる人間を皆殺しにする。確か防護服と会話した時に、この実験を終わらせる方法として俺も同じことを言った気がする。ただ、倫理的に考えてもそんなことは一般人の俺にはできないし、ムクロや芥川と会って俺じゃこいつらを殺せないと実感した。だからそんな考えはとっくの昔に捨てられていたのだが――
「ムクロから離れて二人だけになれたのは好都合だな。君が知りたいもう一つのこと。ここから脱出するための手段である、被験者皆殺し計画についても気兼ねなく話し合える」
どうやら再びその考えが手元に戻ってきたらしい。
冗談を言っているわけではないことが伝わってくる真剣な表情で、神月は続ける。
「ここから脱出するための方法は、強制的にでも実験を終わらせる――つまり被験者全員を殺すことだけだ。敵は君が思っているよりもはるかに巨大だ。内部からも外部からも、正攻法で立ち向かうことは不可能と言っていい。もし津山君が本当にこの場所から逃げたいと思っているのなら、皆殺しに手を貸してくれないか」
嘘偽りのない本心からの発言。
それが分かるだけに、いろんな意味で俺は固まった。
黙り込んでしまった俺を見て、プレッシャーを与え過ぎたとでも思ったのだろう。神月は少し表情を崩し、労わるような調子で言ってくる
「まあ今すぐに答えを出す必要はない。君みたいな一般人にはかなり荷が重い話だろうからな。俺ももう少し怪我が良くなるまで、ムクロとの再戦は厳しそうだし、一週間後ぐらいまでに結論を出してくれれば構わないよ」
表情を押し殺し、俺は聞き返す。
「……皆殺し計画に俺が入ってないのはなんでだ。俺だってここに集められた被験者の一人だぜ」
「いや、君は少し事情が違う。おそらく『毒消し』として招集されただけだろう。だから綾崎君同様殺しの対象には元から入っていないんだ」
「綾崎まで助けんのか。だったら皆殺しには程遠いな」
「まあね。この実験を終わりに追い込めればそれで――」
全力で一発、右ストレート。
まだ話してる最中の神月の顔面に、俺の拳がめり込んだ。
攻撃されるなんて予想していなかったのか、驚いた表情で神月は俺を見つめる。だがそれも一瞬のこと。すぐに意識を失い、床の上に大の字で倒れ動かなくなった。
今回も手ごたえばっちり。もしかして殺しちまったかもしれないほどのあたり。
常識的に考えたら息をしているのか確認した方がいいのかもしれないが、そんなことをする気はさらさらない。
生存確認をする代わりに、俺は床に倒れ伏した神月に向けて一言告げた。
「人殺しを軽々しく誘うような狂ったやつに、協力するわけないだろ馬鹿野郎」




