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突然の自殺命令。
抗い難い強制力を持ったその言葉は、確実にムクロの耳を経由して脳まで届く。
もし自分が今の命令を受けたら間違いなく従ってしまう。そんな確信と共に、ムクロの反応を固唾を呑んで見守る。
普段から何も感情を宿さないその表情に、一体どんな変化が加わるのか。
数秒の間、心音さえ聞こえてきそうな静寂があたりを包む。
やがて、ムクロは動いた。
「今の、どういう意味ですか? もしかして、私のことを殺そうとしたんですか?」
カタリと首を傾げ、ムクロが言う。
神月の『命令』を聞いた直後であるにもかかわらず、先程までと全く変わらない様子。自殺なんてする気配は一切見せず、うつろな瞳でじっと黒服の姿を見つめていた。
いまだ威圧感を放ったままの神月は、その目を見ても怯むことなく睨み返す。それを肯定と受け取ったのか、ムクロはさらに言葉を続けた。
「やられたら、やり返す。倍返しだ。私はこの言葉をすごく気に入ってるんです。神月さん、今この場で頭を打ち付けて死んでくれませんか」




