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「新しくここに入ってきたやつ? その割には妙に落ち着いてるように見えるが、本当に新人か?」
先よりもこちらに近づいてきたため、黒服の男の顔がよりはっきりと確認できるようになる。左目に一本切り傷ができているほか、特徴といった特徴もない。年齢はまだ三十代ぐらいだろうが、表情からは倦怠感のようなものが伝わってきて、パッと見さえないおっさんといったイメージだ。
ただこの施設に対して怯えや困惑といった感情を抱いているようには見えないし、ずいぶんと慣れ親しんだ場所のように歩いている。
ムクロはまたカタリと首を傾げると言った。
「まったく見覚えがないので、新人さんで間違いないと思いますよ。それに睦雄さんは違いましたが、ここに連れてこられる方たちは、たいてい最初から落ち着き払った人たちばかりですし。別に彼が新人さんであっても不思議じゃないですよ」
「ああ、言われてみればここに連れてこられるやつってあれな人間ばかりだったな。ならあの態度も不思議じゃないか。じゃ、一応挨拶だけしとくか」
ムクロもカタリと頷いて同意する。
二人で歩いて彼の元まで向かうと、片手をあげながら挨拶をしようと口を開く。が、こちらが言葉を発する前に、男は俺たちの名前を呼んできた。
「今回の最重要ターゲットのムクロと、彩智と最後に会話していた津山睦雄か。ちょうどよかった。特に津山君のほうには聞きたいことがあったからな」
やる気は一切感じられない口調ながらも、どこか圧倒されるような気迫を持った声。
無意識に、一歩後ろに下がっていた自分に気が付く。
俺は怯みかけた自分の心を叱咤し、眉間にしわを寄せて男をにらみつけた。




