31
「はぁ、はぁ、はぁ……。なんとか、生き返ったか……」
無事に呼吸を取り戻した水木の隣で、俺は大の字になって寝転ぶ。
危うく人殺しになりかけたが、必死の蘇生活動によって蘇らせることに成功。下らなすぎる突然のピンチから解放され、ほっと息を漏らした。
「あー、よく分かりませんがご迷惑をおかけしたようで申し訳ありませんー。一度眠ってしまうとなかなか起きられないもので……」
ぽわーっと間延びした口調。
ゆっくり話そうと意識しているわけではなく、これが地なのだろう。その話し方をイライラせずに聞いていられるのは、声から滲み出る穏やかなぬくもりのせいか。声を聞いているだけでこちらの心まで緩んでいく気がする。
ほんの少しの罪悪感を抱きつつ、俺は芝生から体を起こした。
「別に謝る必要はねえよ。用事があるとはいえ無理に起こそうとした俺にも非はあるからな。と、これから少し話を聞きたいんだが、その前に一つ確認してもいいか?」
水木は目をしぱしぱさせながら俺を見つめる。
「確認、ですかー? 一体何でしょう?」
俺は水木から視線を外しつつ言った。
「ただの噂なんだけどよ。お前と会話したやつはこの植物室を生きて出られない、みたいなことを耳にしたもんだから。本当かどうか本人の口から聞いておきたくてな」
こんなほんわか生物にビビっているわけではない。ビビっているわけではないが、やはり気になる。ここに集められた奴らの特性を考えれば、こいつもふわふわしただけの一般人なはずがないから。
俺の質問に心当たりはないのか、水木は不思議そうに頭をひねる。しばらく考えても思いつかなかったらしく、申し訳なさそうに口を開いた。
「人のことを覚えるのは苦手なもので、そんなことがあったのかよく分かりませんー。まあ確かに、僕と会話をして一緒にお昼寝した人は、数日ずっとこの植物室で眠り続けた後、ぱたりと姿を見せなくなったような。彼らってどうなったんでしょうねえー」
一人首をひねっている水木を見て、こいつがどんな『毒』の持ち主なのかおおよそのイメージがつかめる。あの芥川と同じタイプで、無意識に人の心に干渉する人間。長く話しているとその穏やかでふわふわした意識が感染し、相手を無気力無警戒人間に変えてしまう『毒』。
これは気を引き締めて質問する必要がある。俺は自分の指を逆方向に曲げ無理やり痛みを与えつつ、この施設の情報を聞いていった。




