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植物室に着いた時の元気はどこへやら。
俺は死地に乗り込む兵士の気持ちで、緊張感を全開にして水木へと寄って行った。
遠目で見たときから分かっていたことではあるが、身動き一つせず眠っている水木。
緊張とか、不安とか、恐怖とか。そう言った負の感情を一切抱いていない安らかな寝顔。身長や顔つきからすると高校一年くらいに見えるが、警戒心皆無のその寝顔からは、生まれたての赤子のようなイメージを受ける。日の光に当たっているからか少し顔は赤いが、もちろん健康的な色合い。ハンサムと言うよりは可愛いといった容貌で、いわゆる母性をくすぐるタイプの見た目だ。……俺とはまさに正反対。
さて、いつまでも寝顔を盗み見ているわけにもいかない。正直こいつから何か有益な情報が得られるとは思えないが、ここまで来て何も聞かないという手はないだろう。
あまり乱暴にならないよう、軽く肩をゆすってみる。
「…」
ピクリとも反応しない。
今度は少し強めにゆすってみる。
「……」
ピクリともしない。
ゆするだけでは起きないと考え、少し強めにびんたしてみる。
「………」
全く起きる気配がない。
少しイライラしてきて、強めに腹を一発殴ってみる。
「…………」
ビクン、と反射的に体が震えたが、寝顔は変わらず。
これは暴力で起こそうとしても無駄だと考え、鼻と口を塞いでみる。
「……………」
五分ほど塞いでも起きる気配はない。
ふと気になって呼吸をしているか確認してみると、完全に呼吸は止まっていた。
「………………もしかして、殺しちまった?」
一瞬の思考停止の後、俺は大急ぎで心臓マッサージを開始した。




