3
疑問に思ったからと言ってすぐに答えが返ってくるはずもない。
さっき殴り飛ばした少年は気まずいのでおいておくとして、やはり人に聞くのが一番だろう。
ざっと周りを見回してみたところ、この場にはだいたい十人くらい人がいる。
手直にいる奴に近づいて、ここがどこで何なのか聞いてみるか。
だいぶ落ち着きを取り戻した俺は、ゲームや漫画の世界でしか見たことがない、うす紫色の髪を持ったツインテール少女に話しかけた。
「なあ、ここってどこなんだ? 気絶させられてる間に連れてこられたっぽいんだが全然状況をのみ込めて――」
俺が話しかけたのに反応し、少女の目が俺を捕える。その瞬間、俺は質問しようとしていたことを忘れ、本能的な恐怖から一歩後ろに退いた。
髪の色と同じ紫色の瞳。それはそれで十分すぎるほどに珍しいが、問題はそこじゃない。俺と視線が合ってるはずなのに、俺じゃない何かを見つめているような、そんな気持ちの悪さを感じる、うつろ過ぎる瞳。
時に瞬きをし、わずかではあるがゆらゆらと揺れているから生きていると分かる。だが、そうでなければ死体と見紛うような、まるで生気を感じさせない瞳。
こいつはやべぇ。
俺の生存本能がはちきれんばかりに警鐘を鳴らす。
このまま見つめているのは不味いと感じ、視線を少女の首から下に落とす。しかしそこで視界に飛び込んできたものを見て、俺は不覚にも引き攣った悲鳴を上げた。
少女は不気味なことに、内臓が飛び出た無駄にリアルな兎の人形を抱えていたのだ。
ぱっくりと切り開かれた腹から飛び出た心臓・胃・腸のあまりのリアルさに吐き気すら催す。とにかくこいつはヤバい。そう思い、素早く体を反転させる。が、俺が逃走を図るより早く、うつろな少女は俺の手をそっと握りしめた。
魂を霊界に誘う死神のような声で、少女はそっと囁く。
「知りたいことが、あるんですよね。教えてあげますから、ついてきてください」
強引さも、熱意も、何も感じさせない声。にも関わらず、その声に抗うことはどんな生物にもできないだろうという圧倒的な強制力が、そこにはあった。
手を掴まれ、声で誘われ、俺の退路は消滅したも同然。
ならいっそ開き直ってやれと、一般人ならではの空元気を発揮し少女に向き直る。
「おう、道案内宜しく頼むぜ」
「宜しく頼まれました」
うつろな少女は、カタリと首を傾げてみせた。




