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綾崎突然の来襲事件から五分後。
俺とムクロは無事に植物室へとたどり着いていた。
植物室は他の部屋とは違い、部屋の壁全てに青空の絵がペイントされている。さらに部屋全体を囲うようにして多種多様な植物が植えられ、中央は寝心地の良さそうな緑の芝生が生えている。天井は天窓になっていて、部屋全体を太陽光が照らしていた。
芥川が話してくれたことは嘘じゃなかった。
まさに色とりどりの植物が栽培されている色彩のオアシス。
赤や青、黄色に緑。久しぶりに見る自然な色彩に心を癒されながら、さらに大きく深呼吸をする。この建物に監禁されてから初めて呼吸ができた。そう思えるほど、他とは違う新鮮な空気が体に入り込んでくる。
天窓からは太陽の光が惜しげもなく降り注ぎ、体の中に溜まっていたしこりが浄化されていく錯覚すら覚える。
あまりの気持ちよさに、その場で倒れ込み昼寝をしたくなってくる。
と言うか、まじで寝てしまおうか。
「睦雄さんはとてもこの場所が気にいったようですね。私は日の光は苦手なので、あまり好きではないのですが」
太陽の光を嫌がるように、手で顔を隠しながらムクロが言う。
ちょっと意外な弱点。ムクロにも苦手なものが存在するんだということにどこか安堵しつつ、俺は緩みきった声で言い返す。
「太陽光が苦手とか、お前は吸血鬼かよ。あんまり長く浴びてると紫外線が鬱陶しいが、ちょっと浴びる分には最高だろ。なんかもう、言葉にできない悪いものが、全部消えてなくなる感じみたいなよ……。そんな快感すらあるじゃねえか……」
「……ちょっとよく分かんないです。私って、言葉にできない悪いものの塊なんでしょうか?」
ちらりとムクロの髪に目を向けてから、ぼんやりと答える。
「ああ、きっとそうなんじゃね? 紫色ってなんとなく悪ってイメージあるしよ」
「……もう分かっていると思いますが、水木君は芝生の上で寝っ転がってる人です。好きなタイミングで話しかけてください。私は少し気分が悪いくなってきたので、部屋の外で待ってますから」
紫を貶したから拗ねた、というわけではないだろうが、いつもよりどこか固い口調でムクロが言う。本当に太陽光が苦手なのかもしれない。
つまり植物室は光や空気が他よりも素晴らしいだけでなく、ムクロ避けにもなるという事か。ここは本当に素晴らしい場所のようだ。
この建物に連れ込まれてから一番と言っていいほどテンションが上がる。
俺はうきうきした気持ちのまま、水木に話しかけようと芝生へ歩き出す。その背後で、部屋から出る直前のムクロが、ぎりぎり聞こえる音量で、ぽつりと呟いた。
「因みにですが、この部屋を好きだと言ったのち水木君に話しかけた人は、二度と再び生きて植物室を出られないそうです。今のところ例外はないらしいですが、睦雄さんも気おつけてくださいね」
……………………………………………………マジで?




