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俺の驚いた表情が面白かったのか、綾崎はより笑みを深くする。だが、特に茶化すような発言もせず、くるりとムクロに向き直った。
「そんじゃ、ムクロちゃんにも挨拶できたし、お邪魔虫はさっさと退散しますかね。毒消し六号くんも、生きてられたらまた話そうよん」
そう言うと、人生が楽しくて仕方ないと言った高笑いを上げながら、綾崎は立ち去っていく。
その背中に軽く頭を下げると、ムクロは何事もなかったかのように目的地へと歩みを再開しようとする。
だが、今の俺にとっては水木なんて男よりも、こっちの方がよっぽど気になる相手。奇抜な見た目や独特な話し方だけ見ればこの建物にいるのは不自然ではないようにも思える。が、まるで自らが変わっていることを自覚してるかのような自虐的なセリフなんかは、ここで会った他の誰よりも一般人に近かった。
そして何より『毒消し』発言。
五年もいるだけあってか、こいつはドクロ女よりも深くこの実験について詳しく知っている。そう思わせるだけの意味深さを秘めた言葉。
――こいつは絶対に何かを知っている。今度こそ確実に、研究者側の人間だ。
そんな確信を抱き、俺は綾崎の背中に向かって大声で呼びかけた。
「ちょっと待ちやがれ! 『毒消し』ってのはどういう意味だ! もしお前がここで行われてる実験について何か知ってるなら、全部教えろ! 俺は今すぐにでもこの場所から立ち去りたいんだよ!」
俺が呼び止めることは予想していたのか、綾崎はあっさり立ち止まる。そして首だけ振り返り、にや付いた表情のまま小さく手を振った。
「俺に質問したいなら、マリアと会話したうえで生き残ってからにしてくれよう。どうせ死んじゃう奴に無駄な時間は使いたくないからねえぃ。んじゃ、ムクロちゃんとのデートをごゆっくり~」
会話は終わったとばかりに綾崎は歩みを再開する。いつもの俺だったら殴ってでも喋らせようと考えただろうが、彼に対しては全くそんな気が湧いてこなかった。
ふざけた喋り口調ではあるものの、その一言一言に嘘は全く込められているように思えない。それだけでなく、自分の言葉を絶対に曲げるつもりがないと言った、信念のようなものさえ感じた。
狂ってるのとは何か違うが、やはりただの一般人じゃない。
そんな漠然とした思いを抱きながら、結局俺は綾崎を追うことはしなかった。




