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「やっぱり食べなれてるものの方がうまく感じるな。正直キャビアもトリュフもどこが美味いのかよく分かんなかったしよ」
「そうですか? 私はどちらも美味しく感じましたけど」
結局ムクロからもらった一口ぶんのカレーだけでは足りず、自分用にカレーを追加注文。さらに四杯お代わりし、食後のデザートとしてマンゴープリンも注文した。ムクロはかなりゆっくりと食べていたため、一皿しかカレーを食べていないものの食べ終わった時間は同じ。デザートとして、俺が残したキャビアをつまんでいた。
「ところで、この建物にはお前より居住期間が長い奴とかいんのか?」
マンゴープリンの最後の一欠けらを口に入れつつ、ムクロに尋ねる。
ドクロ女の話や、今まで会ってきた相手から考えても、長くここにいる奴ほどヤバい『毒』を持っていることは間違いない。ちょっと話すだけで相手の心を掌握してしまえる芥川は一年。頼んだだけで人を自由に操れる(らしい)ムクロは三年。ではムクロよりも長くここに住むような人物がいるとしたら、そいつはどれほどの『毒』を持つというのか。
いない、という答えを期待しながらムクロを見ると、彼女はカタリと首を傾げた。
「睦雄さんはここに住んでいる期間をよく気にかけますが、それは何か意味があるのですか?」
現在ヤバい奴ランキングの一位に君臨するこいつに、本当のことを話すわけにもいかない。愛想笑いを浮かべながら、俺は勢いよく首を横に振った。
「たいした意味はねえよ。ただ長くいる奴ほど、この建物についても詳しく知ってるだろうからよ。ここから逃げるためのいい情報を持ってたりしないかと思ってな」
「ああ、そう言えば睦雄さんはここから出たがってましたね。まだ諦めてなかったんですか」
「いや、諦めるわけないだろ。どんな崇高な目的の元こんな実験をしてるのか知らねえが、それに俺が協力する理由はない。あっちに逃がす気がないってんなら、自力で脱出するしかねえだろ」
「成る程……」
俺の言葉に納得したのか、ムクロは首をカタリと前に倒す。それから、できれば聞きたくない、最悪な一言を放った。
「ここに私より長く住んでいる方は二人います。一人は五年前からで、もう一人はこの実験が始められた十年前から住んでいるそうです。ですから話を聞くなら、実験当初から参加している彼女――マリアちゃんに聞くのが一番だと思います」




