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「は? 俺の聞き間違い……じゃねえよな、きっと」
頭痛がする。
ネズミ服の少年。人を殺すことに快楽を覚えるような、いかれた殺人鬼には見えなかったが、まさかこいつが関わっていたとは。
どんな反応をするのが正しいか分からず、俺は無表情でムクロを見つめた。
「一応確認しておきたいんだが、あの変なネズミのイラストが描かれた服のガキに俺たちを襲わせたのはお前ってことでいいのか?」
ムクロはカタリと首を傾ける。
「そうですよ。ああでも、睦雄さんを襲わせたのは私の本意ではありません。あの邪魔な女を殺してもらえるよう、誰でもいいから殺したくなれと頼んだだけですので」
「頼んだだけって……そんなんで誰でもいいから殺したくなんてならねえだろ」
「そんなことないですよ。皆さん私が頼むと、快くやってくれます。睦雄さんも、私にお願いされたら、きっと快く受け入れてくれるんじゃないですか。試してみます?」
うつろな薄紫の瞳がじっと俺を見つめる。
お願いしただけで、相手を自分の思い通りに動かす力。そんなものあるわけがない。もしそんな力があれば、それは『毒』などと言うレベルでなく本当に超能力になってしまう。
だから試したって問題ないはずだが――脳内で、「殺す」という言葉を延々と繰り返していた少年の姿が浮かび上がる。
引き攣った笑みを浮かべながら、俺は首を横に振った。
「んなもん試さなくていいよ。それが事実だろうがなかろうが、俺に得はねえしな。それより、どうしてドクロ女を殺させたんだよ。あいつはまだ一週間しかここにいなかったはずだろ? その間にトラブルでも起こしてたのか?」
今までとは逆方向に、カタリと首を傾げてから、ムクロが言う。
「トラブルなんてありません。そもそも昨日まで顔も知りませんでしたから」
「だったら何で――」
「睦雄さんと、仲良くおしゃべりしていたので。少しイラっとしてしまったのです。だから殺すよう彼に頼んだのですが、何か問題がありましたか?」
底が見えず、何も映り込まない瞳。
言葉にできない悪寒を感じ、俺は目をそらして黙り込むことしかできなかった。




