19
登場人物紹介
・津山睦雄:主人公。1から登場。身長は約百七十。かなり筋肉もありがっしりとした体形。やや粗暴。自分のことをどこにでもいる一般人であると自称している。生存。
・本を読んでいた少年:2から登場。特徴不明。おそらく本が好き。生存。
・ムクロ:3から登場。うす紫色の髪と瞳をもつツインテールの少女。体は小柄で中学生くらい。目が死んでいる。生存。
・防護服:4から登場。防護服のせいで容姿は不明。ハスキーボイス。この実験を監視する研究者の一人。生存。
・芥川幽:7から登場。黒髪の好青年。人に好かれやすい性質。心中志願者。生存
・ドクロ服の女:10から登場。ドクロマークが描かれた黒いローブを羽織った、きつい目つきの女。ここで行われる研究や、集められた人物について多くの情報を持つ。16で死亡。
・ネズミ服の男:16から登場。趣味の悪いネズミがイラストされたパーカーを着た少年。おそらく中学生。ドクロ服の女を殺した。17で死亡。
頬に何かが当たっている。痛いというほどではないが、鬱陶しくはあると言ったレベルの感覚。執拗に、何度もその感覚が繰り返される。俺は我慢できず、ぼんやりする頭のなか目を開き、それが何かを確認した。
「……人生で最悪の目覚めかもしれねぇ」
「どうしてですか?」
視線の先には、指でツンツンと俺の頬を突き刺しているムクロがいた。俺同様寝起きなのか、それともしばらく前から起きていたのかは判然としないが、相変わらずのうつろな目。
その目は、長く見ているとここが死者の国なんじゃないかと勘違いしてしまいそうなほど、生気が宿っていない。少なくとも寝起きに見て気分が上がるようなものじゃない。というか死にたくすらなりそうだ。
俺はムクロの指攻撃を手で弾いてから、むくりと体を起こす。頭がまだぼんやりとしており、寝る前の記憶がどこか曖昧だ。「どうしてですか?」という言葉を繰り返し続けるムクロを無視して、一体何があったのか記憶を掘り起こす。
――確かドクロ服の女が突然殺されて、なぜか殺した本人もその後死んだんだよな。で、疲れと混乱がピークに達した俺はその場で横になって……。しばらくボーっとしてたら白いガスが部屋に充満して、それを吸い込んだら眠りに落ちたんだ。そして目が覚めたらムクロが俺の隣にいた、と。……まあ取り敢えず、夢じゃなかったらしいな。クソ。
寝て起きても変わらぬ現実。そのことにがっくりと肩を落としつつ、周りを見渡してみる。
昨日と全く同じ光景。ただし、その真っ白な空間のどこにも死体は見当たらなかった。
いまだに同じセリフを吐き続けるムクロの問いかけには答えず、血の一滴も見当たらない床を眺めながら俺は聞く。
「なあ、死体がなくなってんだが、どこに行ったのかお前知らねえか?」
場所がここで、相手がムクロでなければ流石に気が狂ってるんじゃねかと思う質問。だがそんなことをムクロが気にかけるわけもない。リピートをやめ、カタリと頷いた。
「死体なら私たちが寝ている間に、職員さんが回収しましたよ」
「回収ね。ドクロ女の言葉が正しければ、死んじまったやつに用はないだろうからな。それも当然か。にしても、あの趣味の悪いネズミ男は何だったんだよ。突然殺しにかかってきたくせに、勝手に死にやがって」
理不尽で自分勝手な物言いの気もするが、それぐらいは言ってもばちは当たらないだろう。彼らはこんな地獄みたいな場所から死んだとはいえ逃げられたのだ。まだここにい続けないといけない俺に、それぐらいの自由は与えてほしい。
一人そんなことをつらつら考えていると、抑揚の一切ないうつろな声で、ムクロが呟いた。
「彼、思ったよりまともな精神の持ち主だったんですね。まさかあんなに早く壊れるなんて。でも、邪魔者は消してくれたし、良しとするべきですか」




