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人間を使った蠱毒の作成。はっきり言ってそんな実験が存在しているなどと考えたくはないが、現に人を殺すほど強力な『毒』を持った人物がおり、そいつらを集めた収容所まである。
ドクロ服の女のことを完全に信じるわけではないが、このことは認めないわけにはいかないように思えた。
「なあ、その蠱毒実験自体は理解したくないが理解したよ。ここにいんのは、俺みたいな一般人とは次元の違う狂ったやつらだってのは肯定するしかねえしよ。だけどよ、それで結局この実験を行ってるやつらの目的って何なんだ? この中で最もヤバい人間が育ち、生き残ったとして、それで誰に何の得があるんだよ?」
ここまでの話を聞いたうえでの素朴な疑問。
こんなただただ気味の悪い実験をするくらいなら、まだ超能力者や霊能力者を作るような研究の方がましなように思う。そっちの方が成功した時のメリットは大きそうだし、こっちの常時発動型毒モンスター作成よりも扱いやすい気がする。
こんな成功してもたいして価値のなさそうな実験に、誰が投資しているのか。まず以てそれがよく分からない。
俺がそうした疑問を持つのは想定していたのだろう。ドクロ服の女は特に考えることなくあっさりと答えを口にした。
「この実験の費用――まあ、私達の食費やその他生活費がメインになるだろうけど――は、国の方から援助されているそうよ」
国、という単語が出てきたことに驚き、俺は軽く体をのけぞらせた。
「おいおい、国もグルなのかよ。なんでこんな実験に手を貸してんだ?」
「別に蠱毒実験に手を貸してるつもりはないと思うわ。あくまで、世の中に解き放って置いたら災厄をまき散らす危険因子を隔離するための費用、として援助しているはず。
それから、蠱毒実験の最終目標は、生物兵器としての利用ってところでしょうね。そこにただ存在するだけで周囲に毒をまき散らし、人を狂わせたり殺したりしてくれる。ありとあらゆる検査に引っ掛からず、敵地の奥深くまで進ませることのできる、死んでもみんなが喜ぶだけの兵器。そんなものが作れるなら、それなりに利用価値はあるでしょうからね。
まあいくら強い毒ができたとしても、一人しかいなかったら大したことはできないと思うし、実用なんて絶対にしないでしょうけど。でも取り敢えずは、それが最終目標だと思うわよ」
やはり生物兵器としての利用か。多少予想していたとはいえ、本気でそんなことを考えているのだとした理解しがたいとしか言いようがない。
ドクロ服の女が言った通り、実用化させるなんてまず無茶だろうし。仮にクローン技術なんかでその『毒』持ちを大量に生産できるとしたら別かもしれないが……っと、芥川やムクロが数千人といるなんてのは、想像するだけでも失神しちまいそうだ。
まあ何はともあれ、ここに集められた理由やその目的なんかは――正しいかどうか知らないが――ほとんど分かった。一日目に得られる成果としては十分すぎるぐらいだろう。
俺は満足して一度大きく頷く。そしてすぐに、別の問題へと思考を切り替えた。
何度か首を左右に振って、頭がもう落ち着いたことを確認。勢いよく立ち上がると、床に座ったままのドクロ女を睨み付けた。
「そんで、お前は一体何なんだ。これだけ情報を持ってるってことは俺と同じただの被験者ってわけじゃねえんだろ。お前がここにいる目的を、そろそろ話してもらおうか」




