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「あんたも芥川やグロテスクな兎の人形を持った少女と話したから分かると思うけど、ここにいる人間は皆狂ってる。それもただ狂ってるだけじゃなく、一緒にいる人にその狂気を伝染させる力を持っている。あんたもかなり危険な目に遭ってたけど、芥川なんて特にヤバいわ。ここに連れてこられる前に、あんたにやったのと同じような方法で十数人を殺してる。そのあと刑務所に入れられたけど、そこでも看守や他の囚人を殺害。そもそも彼には悪意が一切なくて、好きな人と一緒に死にたいと思っているだけなところが何よりも厄介で、恐ろしい所よね。彼と一言でも話してしまえば、ほとんどの人が魅了されて彼の指示に従ってしまう。だから、彼が心中を提案すると皆それを躊躇うことなく受け入れる。それでいてまた厄介なのが、なぜか心中を提案した本人は死なないってところなのよね。
せめて心中したくなくなるようカウンセリングを行った精神科医なんかもいたらしいけど、あっさりと魅了されて殺されたらしいわ。そんなわけで、芥川なんかは蠱毒計画の最有力候補とも言われたりしてる」
俺はついさっきしたばかりの、芥川との会話を思いだす。
ほんの少し話しただけで、自分の全てをさらしても受け入れてくれるのではないかという包容力を感じた。その感覚は芥川の声を聞けば聞くほど強まっていき、ふと気づくと頭の中が芥川の存在で埋め尽くされている。いや、そのことに気づくことすらできないから、結果として芥川の言葉に従ってしまう。俺は運よくそれに気づき殺されるのを回避したものの、もう一度同じように逃げられるかというと、あいつの特性を知った今でも全く自信はない。
それ程までに強力な、心を狂わす『毒』を、芥川が持っていたのは間違いないことだった。
ぐっと押し黙って何も話さない俺を気にかけながら、ドクロ服の女は話を続ける。
「でも、ここには芥川よりもさらに強い『毒』を持っていると思われる人が何人かいる。この狂った実験の初期から参加して、いまだに死んでいない人物。年単位でここにいるって奴らは、全員もれなく致死量以上の『毒』の持ち主よ」




