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「……知ってる? まじで?」
「ええ、知ってるわよ。それだけじゃなくて、ここでどんな実験が行われてるのかもおおよそ見当はついてるわ」
ずっと気になっていた情報。それを挨拶回りの二人目で得ることができるとは。一人目が死ぬほどヤバかっただけに、その分の運が向いてきたのか。俺は身を乗り出してドクロ服の女に迫った。
「一体ここで行われてる実験ってのは何なんだ! どうして俺がそんなものの被験者に選ばれた!」
「ちょ、ちょっとあんた近いわよ! ちゃんと話すから少し離れなさい」
今日一で興奮している俺の耳にそんな言葉は届かない。それどころかより近づこうとすると、女の方がじりじりと後ろに下がりだした。
「ま、まず、ここに私やあんたが連れてこられた理由は、私達が普通の人とは少し変わってるからよ。具体的にあんたのどこが変わってるのか私は知らないけど、ここの実験に参加するのに適した人だと思われたのね」
「別に俺は変わってねぇよ。どこにでもいるただの一般人だ」
「芥川の誘惑から逃げられた時点で、一般人とは言えないと思うけどね……。まあとにかく、あんたが自分で自分をどう思ってるかはこの際関係ないわ。実験を進める研究者側から見て、あんたの中にこの実験に相応しいと思う何かがあったのよ」
この実験に相応しい何か。どんな実験か知らないが、俺みたいなただの一般人にそんなものがあるとは思えない。だが、先に話した防護服が俺のことを推薦した人物がいる、みたいなことを言っていた気もする。だとすると、この女の話も正しいとみるべきか。
脳内で考えをまとめるのに集中して俺の動きが止まる。俺の接近が止まったことに安堵したのか、ドクロ服の女もほっと息を漏らしてさがるのをやめた。
「……俺が選ばれた理由は一応分かった。要するに他の奴らとは何か違うところがあると勘違いされて連れてこられたわけだ。それで、その変わったやつらをこんな場所に閉じ込めて、研究者どもは一体どんな実験をしてるつもりなんだ?」
ドクロ服の女は「私も詳しく知ってるわけじゃないけど」と前置きしてから言う。
俺みたいな一般人からしたら理解できない、意味不明な実験の目的を。
「ここで行われてるのは、人間を使った蠱毒の実験。世界中から集めた、いるだけで周りを狂わせ不幸にさせる、そんな人たちを同じ場所で住まわせて最強の毒を作るっていう、狂った実験よ」




