11
「ここでそんなまともな言葉を聞けるとは思わなかったわ。できればそのまともさを見込んで、ここからの脱出方法とか教えてくれると助かるんだが。運よく脱走するための計画書とか持ち歩いてないか」
「そんなもの運よく持ち歩いてるわけないじゃない。あんた馬鹿なの?」
至極ごもっとも。とはいえ、運よく包帯や消毒薬を服の中に持っている奴にそんなことを言われるのはどこか納得いかない。
そんな批判の視線に気づいたのか、ドクロ服の女は包帯や消毒薬をローブの中に手早く回収した。
それでもじっと見つめていると、どんどん顔を赤くしていき、ついには怒鳴りだした。
「何よ! 治療してあげた恩人に対して何か文句でもあるの! 別に救急セットくらい常備してても不思議じゃないでしょ!」
「いや、十分に不自然だと思うけど。だいたいここは屋内だろ? 外と違ってそうそう怪我なんてしないだろうし、そんなもの持ち歩く必要ないじゃねえか」
「うるさいわね。屋内であろうと怪我するときは怪我するの! 特に私はそこらへん凄く運が悪いから――ってそんなことはどうでもいいでしょ! 治療は終わったんだからさっさとどっか行きなさいよ!」
「どっか行くも何も俺はここから出られなくて困ってんだけどよ。ああそうだ、せっかくだからいくつか質問してもいいか」
「あんた本当に図々しいわね……。ま、ここに来たばっかりみたいだし、疑問があるのは分かるけど」
ドクロ服の女はため息をつくと、「いいわ、答えられる範囲で答えてあげる」と言ってその場で腰を下ろした。
芥川の例があるからまだ気は抜けないが、こいつはそれなりにまともなんじゃないかと希望が胸に灯る。さて、最初に聞くことはやはりあれ。
「お前はいつからここにいるんだ。もう一年以上住んでたりするのか」
「そんなに長くないわよ。まだここに連れてこられてから一週間程度。ここで暮らしてる他の化け物と違って、全然なじめずに困ってるわ」
一週間。先に聞いた二人が年単位だったから、皆そんなものかと思っていたが違うらしい。ここで行われている実験の被験者とやらは、それなりの頻度で集められているのだろうか。
「一週間ね。だからまだまともなのか。それで、ここに連れてこられた理由とか知ってたりしねえか」
俺は期待のまったく籠っていない声で尋ねる。それに対する返答は、
「知ってるわよ」
という至極簡潔なものだった。




