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八百万が祭る 準備不足は否めない  作者: 東東
【三章】準備も含めて目的です
15/22

「・・・あの、それで、さっきのお二人の様子はどういったことだったんでしょうか?」


 行きとは違い、特に危険もなく芦の部屋に戻ってから宇江樹が発した第一声は、そんな台詞だった。

 きっと、墓場からずっと気になっていたのだろうそれをただ黙って飲み込み続けてくれていた宇江樹は、本当に誠意の固まりのような人間で、そんな人間が発した問いに、芦と井雲が答えない理由はないので、みーさんが早速テレビに視線を向け始めたのを確認した後、顔を寄せて、小声で話し始めた。

 芦の胸に浮かんだ一滴の黒い染みから始まった、二人のやり取り、考え、思いを、話して、話して、話して・・・、


 ・・・いる間に、宇江樹の真面目で誠実さが染み込んだ顔は、他の二人以上の苦悩を浮かべ、今にも死に絶えそうになっていった。


 あ、拙い、と思ったのは、おそらく芦と井雲、二人とも同時のタイミングだっただろう。自分達より遙かに思い詰めてしまう質の宇江樹に向かって話すには、やはり酷だったのかもしれない、と。

 少なくとも、交わされた有りのままのやり取りを話すのではなく、もう少しやんわりとした表現に変えて、色々拙そうな部分は端折って話すべきだったのかもしれない、とも思った。

 しかし時は戻らない。一度口にしてしまった言葉もまた、決して戻ったりはしない。その為、二人は全てを話してしまった後、どうしたらいいのか分からなくなり、黙り込んでしまう。・・・まぁ、その行動自体、よくあることなのでさして珍しいわけでもないのだが。


「・・・僕は、必ず・・・、悪霊になってでも必ず、この世にしがみつきますので、お二人はどうぞ安心して、安らかに天の国に召されて下さい」

「いやっ! うーさんっ、どういう結論に達してるんだよ!」

「早すぎだからっ! うーさん、その結論、色々早すぎだから!」


 重くて辛いが、正直言えばよくある沈黙を破った宇江樹は、正直言えばこれもまた、よくあることではあるが、かなり暴走した発言を口にし始めた。そしてこれまたよくあることなのだが、それを慌てて井雲と芦が止めに入る。

 両手で頭を抱え、激しく先走って暴走する宇江樹に取り縋りながらその暴走する思考を止めようとする他二人、攻防と化しているそれが収まるまで、数分を要した。

 全く背負わなくて良いのに、全てを今から背負う気満々になってしまっている宇江樹に、その事を分からせるのはそれなりの時間が必要で、結局、落ち着きを取り戻すまでに十数分を必要としてしまう。

 それこそ、すっかり騒ぎが落ち着いた頃には、みーさんが見ていたワイドショーが、次のコーナーに移るほどで。

 ・・・その移った先の話題も変わらず、芸能ニュースで、しかも内容が自分のマネージャーに対するセクハラ、暴力行為疑惑に対する釈明会見と、その真偽を検証するというものなのだから、我に返った三人も、流石にチャンネルを変えるべきではないかと十数秒、考え込んでしまう。

 コメンテーターの過剰すぎるリアクションに楽しげに笑うみーさんを見て、あっさりとその考えを放棄せざるを得なくなってしまうのだが。・・・三人とも、楽しげなみーさんの邪魔は、たとえそのみーさんの為にすべきだと思っていても、どうしても行動出来ない人間だった。

 ただ、行動は取れなくても、とりあずは一旦、落ち着いた。主に落ち着いていなかった宇江樹が落ち着いたことで、梳毛駅を落ち着かせようとして落ち着いていなかった他二人も落ち着き、ようやく話し合いのテーブルにつけるレベルに到達する。

 そしてまず最初についたテーブルで口火を切ったのは、先ほどまで一番落ち着いていなかった宇江樹だった。


「・・・毎度毎度、暴走してしまい申し訳ありません。なんか、どうも・・・、親から何かの資質を引き継いでいるみたいで」

「そんなことねーよ!」

「そうだよっ、そんな哀しいこと言うなよっ、うーさん!」


 沈痛な面持ちで口火を切った宇江樹の台詞に、井雲と芦が慌てて強い否定を口にする。毎回暴走する、程度の発言なら軽く笑い飛ばすことも出来たかもしれないが、親から何かの資質を引き継いでいる、なんて台詞が出てしまっては、強く、激しく否定するより他ない。

 なんせ、引き継いでいる親がどちらで、何の資質を示しているのか分かってしまうからだ。

 この三人の中で一番頼りになる、一番善良で、一番不幸で不憫な人に、これ以上哀しい思いをさせるわけにはいかない、それは芦と井雲、二人共の共通の思いで、だからこそ必死で宇江樹の発言を否定した。

 否定して・・・、それでもまだ不安げな色を瞳に浮かべている宇江樹の為に、このままでは拙いと悟った二人は、宇江樹に気づかれないようにアイコンタクトを取ったかと思うと、すぐさま話題を転換する。

 本来、向かうはずだった方向へ。


「つーかさ、今日明日っていうレベルで俺達が死ぬようなこと、たぶん、ないだろ」

「だよなっ、俺ら、まだ若いし!」

「そうそう。・・・っていうか、みーさんがついているんだからさ、突然死ぬって、たぶんないだろ。あの地主だって、普通に寿命で死んだんだろ? しかも結構長生きな方だったんじゃねーの?」

「あれ? そういえばあの人、何歳で死んだの?」

「享年ですか? 確か・・・、百近かったのは確かだったような?」

「それ、マジに長生きじゃん!」

「そう・・・、ですね」


 行きべき方向へ向かう為、まずは最初の方向転換を行いだした井雲の説得に、芦が合いの手を入れることによって、宇江樹は少しずつ、向いてはいけない方向から脱出し始めた。その事に安堵しつつも、今度は芦が、更なる方向転換の為に、その口火を切る。

 芦が、井雲と話しながらも改めて思った、その方向へ。


「でもさ・・・、まぁ、どれだけ長生きでも、いつかはってことでもあるんじゃん? だからさ・・・、やっぱり、今のうちに、みーさんの力になってくれる、みーさんの仲間の神様を見つけてあげるべきなんだろうなって思うんだけど・・・」

「仲間の、神様・・・」

「そうそう、もし見つかったらさ、俺らのご利益問題とかもどうにかして貰えるかもだけど、みーさんだって、俺らに何かあっても、他に仲間の神様がいれば、独りぼっちにならないで済むじゃん? 神様なら、寿命とかもないんだろうし。だから、なんか、話が最初に戻る感じになっちゃうけど、やっぱり、みーさんの仲間の神様を見つけるのが先決って言うか・・・」

「・・・そう、ですよね」

「やっぱ、それしかないよなぁ」


 芦の、どこかたどたどしい提案は、それでも宇江樹や井雲の賛同を得る結果となった。芦自身も言っていたことではあるが、それはつまりこの問題が勃発した当初からの目的で、その目的を離脱するように墓参りに行ってしまったようなものだが、それでもある意味、遠回りこそ近道とでも言うべき形で、決意は強く、固まった。

 三人は、互いに視線を交わし、強くなった決意を交わした互いの視線の中に見つけると、すぐさまその決意を実現すべく、それぞれが今、自分達が出来る戦いの準備を始める。・・・ネット検索する為の、携帯を取り出しただけではあるのだが。

 それは、既に行った行為で、芳しい結果を得ることが出来ない行為でもあった。ただ、その時と今とで、三人の中でこの行為に対する熱意や決意が桁違いに変わっており、三人がかりでしがみつくように一つの行為を行い続ければ、結果が出ない方が有り得ないわけで。


「・・・つーか、なんで黒い蛇の神様って、微妙な話しが多いんだろうなぁ?」

「みーさんは良い子なのになぁ・・・」

「色の所為なんでしょうかね? でも、正直、黒に対するイメージとかって、人間が勝手に抱いているだけだと思うんですけど・・・」

「まぁ、だから人間の解釈なんて、当てにならないってことなんだろうな」


 ・・・等々、検索しつつもぶつぶつ文句や誰にぶつけることも出来ない苦情を洩らしたりしつつ、検索し続けること、数時間。

 どれが本当の情報なのか、いまだに多少の自信がないままではあったが、それでもようやく、三人で力を合わせた検索結果に、それなりに満足出来る状態まで辿り着くことが出来た。

 勿論、それが正解なのかどうかは、三人には断言出来なかったのだが・・・。

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