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平等院さんの意見が聞きたい

 そのコテージは、まるで湖の上に浮かんでいるかのようだった。

 風になぞられて静かに波を立たせる水面の中心に、木造の建築物がポツリと立っている。湖の周りは森に囲まれていて、その上にはたくさんの星の光の粒が幻想的に輝いていた。


 凄惨なる殺人事件は、そんな湖に浮かぶ宿泊施設の上で起こった。


「全く勘弁してもらいたいものですね……こんな美しい場所で、殺人事件だなんて」


 チロチロと暖炉の火が踊る大広間で、一人の男が言葉とは裏腹に嬉しそうに唇の端を釣り上げた。男の名は、平等院鳳凰堂。明らかに偽名である。人を信用してなさそうな腫れぼったい目つき。パーマ頭に、無精髭。ヨレヨレのTシャツに破けたジーンズという、見た目も明らかに安っぽくて怪しさ満点だ。


「殺されたのはこのコテージの管理人の田中早苗さん……。昨晩何者かに、湖の中に落とされて亡くなった……」

 平等院はくるりと踵を軸に体を回転させ、大広間に集まっていた人々の方を振り返った。

「容疑者はここに泊まっていた皆さん。私も含め六名……ですね」

「ちょっと待てよ」

「え?」


 相手を探るような不敵な笑みを浮かべていた平等院を、一人の宿泊客が遮った。

「五人でいいんじゃないか? 探偵は数に入れなくていいだろ」

「へ?」

「そうだね。だって事件を解決しようとする探偵が、まさか人殺しなんてする訳ないし」

「ちょ、ちょっと待ってください。一体何の話をしているのやら……」


 平等院は不意を突かれたかのように声を上ずらせた。宿泊客達五人は顔を見合わせ頷き合う。それから五人は和気藹々と近くの円卓席へと腰掛け、暖炉の前でポーズを決めていた平等院を放ったらかして事件について推理を始めた。


「早速推理を始めよう」

「どう思う今回の事件? 佐藤さん?」

「そうだな……。湖に隣接しているベランダから突き落とすと言った野蛮な行為。決して計画的なものとは思えない」 

 佐藤と呼ばれた男が頷いた。横の席から女性が身を乗り出して来た。


「犯人はきっと、日頃から暴力的な奴だったに違いないわ。あるいはその逆かも。日頃は善良なフリをして、ふとした瞬間に化けの皮を剥いで殺人鬼になるのよ」

「恨みを持っていた、とかかな。被害者の人間関係を調べた方がいい」

「警察に連絡は……」

「もうやってる。山ん中だからな。後一時間ちょっとで到着するらしい」

「ちょっと待って! ちょっと待ってください皆さん!」


 どんどんと五人の会話が進んでいく中、平等院が慌てふためいた顔で割って入った。


「ん?」

「どうした、名探偵?」

「皆さん……それは私の役目でしょう?」

 首を傾げる五人に、平等院は唾を飛ばした。


「折角、私がポーズを決めて喋り出そうとしていたのに……大体なんで、私を容疑者から外すんですか」

「だって、平等院さんが罪を犯す訳がないじゃないか!」

「!?」

 奥の椅子に座っていた柴田が、キラキラとした真摯な眼差しを振りかざし立ち上がったので、平等院は思わず目を疑った。


「都会からやって来た名探偵が! 頭もよろしくて、悪党や犯罪を憎む立派な職業のお方が! 殺人事件だなんてやるはずないですよ! ねえ平等院さん」

「いや……あの……」

「そうよ。仮にも名探偵ともあろうお方が容疑者だなんておこがましいわ。疑うことすら汚らわしい……」

「汚らわしいって……よくあるじゃないですか。探偵が実は犯人だ、ってのも……」

「え!? じゃあ平等院さんが犯人なの!?」


 佐藤が吃驚して声を上ずらせた。平等院は慌てて首を降った。

「ま、まさか……! しかし、推理ってのは全ての可能性を考慮しておかないと……」

「『全ての可能性を考慮』! その言葉がもうかっこいい」

「!?」

「わざわざ自分を疑うように促す人が、犯罪者な訳ないわ。やっぱり、平等院さんは白よ」


 五人は平等院を尻目に、安心したように椅子に座りなおした。

「警察が到着するまでに、状況を整理したいわね」

「それで、我々五人の中に犯人が潜んでいる訳だが……」

「アリバイをはっきりさせればいいんじゃないかな」


 会話が進んでいく中、平等院が宿泊客の間からにゅっと首を突き出した。

「皆さん! 因みに私も、アリバイはありませんよ」

「え!? じゃあ平等院さんが犯人なの!?」

 佐藤が吃驚して声を上ずらせた。


「い、いえ……そういう訳では……。でもほら、怪しいでしょう? だから私も推理に混ぜて欲しいなーって……」

「怪しいだなんて! わざと怪しげな格好や物言いをして、犯人を欺く作戦なんでしょう!?」

「い、いや……その……」

「私達はもう十分理解してるわ。やっぱり、平等院さんは白よ」

「何かすごいやりづらいな……」


 何故か満面の笑顔を向けられ、平等院は聞こえないようにポツリと呟いた。五人は安心したように椅子に座りなおした。


「やっぱり、この五人の中で間違いなさそうね」

「証拠さえ見つかってしまえば、はっきりするんだが……」

「そういえば殺害現場に、探偵帽が落ちていたんだけど……これってもしかして、犯人の落し物なのかな?」

 柴田が思いついたように椅子の下から帽子を取り出して見せた。


「それだ! その持ち主を探せばいい」

「皆さん! その帽子、私のです!」

 平等院がここぞとばかりに割って入った。


「え!? じゃあ平等院さんが犯人なの!?」

「い、いやそういう訳じゃないですけど……その帽子は、昨日の」

「平等院さんが犯人な訳ないじゃない。きっと私達に先回りして、捜査の間に落としてしまったのよ。平等院さんは白よ」

「最後まで喋らせてくださいよ……」


 不満げにブツクサ文句を言う平等院を置いて、五人は証拠発見に湧いた。


「証拠を見つけるだなんて、大手柄じゃないか! 警察が来る前に、我々で犯人をとっ捕まえることができるかも知れない」

「後は犯人が潔く自供してくれればいいのだけれど……」

「皆さん!! 聞いてください、私は……」

 平等院が意を決したかのように、口を開きかけた、その時だった。


「犯人が見つかったら、早苗さんと同じ目に遭ってもらいましょうよ」

「へ?」

 思いがけない一言に、平等院は思わずぽかんと口を開けた。


「そうだな。何の罪もない彼女を突き落とすだなんて、許せない」

「同じように湖に落とせば、少しは目が覚めるかも知れませんね」

「あるいは目が覚めないかも」

「いずれにせよ犯人には、罪を償ってもらわないと」

「あの……えーっと……」

「ところで、白の平等院さん」

「白の平等院……」

 五人が椅子から立ち上がって、口ごもる平等院に向き直った。


「さっき何か言いかけてましたけど、続きを聞かせてもらえませんか?」

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