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バーチャルリアリティ殺人事件:オンライン

『あーあー……お集まりの皆さん、聞こえてますか?』

「何だ?」

「何処から聞こえている!?」


 突然頭上に降り注ぐ何とも薄っぺらな男の喋り声に、暖炉の前に集まった五、六名の人々は驚いて周囲を見渡した。暖炉の火は既に消え、燃え残った木炭の匂いが広間に漂っている。その暖炉の丁度真上に置かれていたテレビが、突如光ったかと思うと勝手に電源が入った。


「うわっ!?」

「な……なんだ!?」


 不意打ちで現れた映像に、その場にいた人は声を上ずらせ思わず後ずさった。長方形のテレビの中には、ひょろ長の男の薄っぺらい笑顔が映し出されていた。


「お前は……!」

『どうも皆さんこんばんは。”バーチャル平等院鳳凰堂”です』

「!?」


 明らかに実写映像の男が、マイクを片手に白い歯を浮かべて集まった人々に手を振った。男の名は、平等院鳳凰堂。明らかに偽名である。人を信用してなさそうな腫れぼったい目つき。パーマ頭に、無精髭。ヨレヨレのTシャツに破けたジーンズという、見た目も明らかに安っぽくて怪しさ満点だ。


「探偵……何やってんだお前」

「お前は三日前、崖から突き落とされて死んだはずじゃあ?」

『フフ……皆さん私のこと、死んだと思ったでしょう?』


 何処からか機械音が広間に響き渡る。映像の中の平等院が、笑顔を絶やさず男の問いに応えた。平等院の台詞で、広間に動揺が走った。


「何……!?」

「じゃ、じゃあ、アレは……!?」

『まあこの映像が公開されているということは、私はもうこの世にはいない訳ですが……』

「やっぱり死んでるんじゃないか」


 メガネの男の言葉を無視して、どうやら別室から映像を中継しているらしい平等院は話を続けた。


『そんなことより、皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。先週からこの館で起こっている連続殺人事件ですが……』

「そうだよ! 我々はそれでお前に呼び出されたんだ」

『実はですね。皆さんお気づきかどうか分かりませんが、この館はですね、”バーチャルリアリティ空間”なんですよ』

「はあ?」


 探偵の言葉の意味が分からず、その場にいた誰もが首を捻った。

「何だよその、バーチャルなんとかって」

『ですから、貴方がたが現実と思っている目の前の空間。それは全て映像で作られたものだったのです。貴方がたはこの館に来た時に、気づかないうちに特殊なカプセルに入れられ、幻の映像をずっと見せられていたんですよ。SF小説とかでよくあるじゃないですか』

「何言ってんだこいつ」

「意味が分からないよ……」


 まるでついていけない、とでも言いたげに一人の宿泊客が肩をすくめた。


「じゃあこの大広間も、外の夜景も、全部映像だってのか?」

「バカバカしい。できるわけがない。大体、一体何のためにそんなことを……」

『すいません、十五秒CM入ります……』

「!?」

「おい! 我々の殺人事件で、広告料を取るな!」


 テレビ画面が切り替わり、数秒間、風邪薬の映像が流れる。殺人事件の間に挟まれた突然のCM休憩に、広間がどよめいた。


「お前、まさか俺たちの映像をネットか何かで世界中に拡散しているんじゃないだろうな?」

『……終わりました。さて』

「答えろよ」

『ごほん。えー、全てはこの事件の犯人が仕組んだ罠だったのです。……おっと! 気をつけて!』

「あ!?」

 

 苛立たしげに広間を離れ、ベランダで煙草に火を付けようとした中年の男に、平等院が鋭く声を飛ばした。


『ベランダは”オフライン”です』

「は?」

 男の足が止まった。

『そのまま外に出ると、通信が途絶えて死にますよ』

「巫山戯んなよ、何だその死に方。怖すぎだろ」

「”通信途絶死”です。ゲームではよくあることですよ』

「んなもんが現実で起こってたまるか」

 

 探偵に噛みつきつつも、男は思わず外に出るのを躊躇した。平等院が満足そうに頷いた。


『さて、”バーチャル関係者”の皆さん……』

「誰が”バーチャル”だ」

『いくらネット上の出来事とはいえ、殺人事件は殺人事件です。”バーチャル早苗さん”を突き落とした”バーチャル犯人”は、必ずこの”バーチャル手”で……』

『待って!』

「!?」


 ”バーチャル平等院”の声を遮って、今度は集まった人々の後ろから声がした。”バーチャル早苗さん”だった。最初の被害者として崖から突き落とされたはずの彼女が、インターホンの玄関を映し出す小窓のところにこじんまりと映し出されていた。早苗さんが叫んだ。


『その男よ! その男が私を突き落としたの! 突然呼び出したかと思うと、”事件が起きないから”とか訳わかんないことを言いながら……』

「何だって!?」

『”バーさん”! 生きてたんですね! 良かった……私はてっきり死んだのかと……』

『誰が婆さんよ!』


 死んだと思われていた二人が、画面越しに再会を果たした。人々はしばらくテレビとインターホンの映像を首を振りながら見守った。平等院が安堵したようにため息を漏らした。


『では私はこれで……』

「おい、待て」


 映像を切ろうとする”バーチャル平等院”に、一人の男が呼び止めた。


「お前が早苗さんを殺そうとしたことには変わりないじゃないか」

『え? いや、でもこれは言ったように”バーチャル空間”で……』

「だったら別に俺たちがお前を、早苗さんがやられたのと同じ目に遭わせても文句はねえよなあ。”バーチャル”なんだしなあ……」

「”バーチャル”だから、本当に死にゃしないでしょ、多分」

「別に何したって平気ですよ。”バーチャル”なんだから」

『いや……え?』

「”生命活動途絶死”です。現実ではよくあることですよ、平等院探偵」

『ちょっとまっ……放送中に部屋に入って来ないで! あ、あぁ……っ!?』

 

 そこで映像が途絶えた。最後の瞬間には、”バーチャル平等院”の背後に”バーチャル関係者”の一人が部屋に押し入り、”バーチャル凶器”を振りかぶっている姿が映されていた。

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