幕間<むかしのはなし>
二〇二〇年、竜はおとぎ話の中の存在ではなくなった。
はじまりは、某国の突然の発表だった。
『人語を解す、全長二〇メートルの生物を捕獲した』
全世界が耳を疑ったその発表を、人々は最初一笑に付した。が、程なくしてそれが流言飛語やフェイクニュースなどではなく、事実であったことを知ることとなる。
おとぎ話のように、二つの翼を備え、肉体は鱗で覆われ、二本の足と短い手を持った竜は、身体のあちこちを鎖で雁字搦めにされた状態で、全世界に公開された。
既にその肉体は人の探究心によって犯されており、半身が機械化されていた。それを生命への冒涜だと憤る人々もいたが、この星の未知を踏破しきったと思い込んでいた大多数の人類の熱狂は、その声を封殺した。
曰く、彼らはこの星に太古から住み続けていたのだという。彼らの痕跡は、各地に残る神話という形に変形し、後世に伝えられてきた。神々は皆竜であった――それを真に受けるものがいたかはともかくとして――事実は、人々をさらなる神秘への探求に誘った。人はさらにこの星の深奥へと押し入り、未知をつまびらかにしていき、神秘は失われていった。
その一方で、人の言葉を解するという触れ込みながらも、鎖の竜は一語たりとも発さず、ぎらついた瞳で周囲のカメラや人を睨み付けるばかりであった。
いくら探し求めたところで、二体目の竜を人の手で見つけることはできなかったが――人の飽くなき探究心は別の形で、竜との邂逅をもたらした。
同族への陵辱と、自らの領域への冒涜。この星に太古から住む竜は、人の暴虐を是としなかった。
彼らは空の果てからやって来た。その出処はついぞ人には知れず、人は竜の神出鬼没な出現に翻弄され続けた。その襲来に前兆はなく、竜の膂力はあらゆる都市を一日もかからずに壊滅させた。
彼らは神の如き「権能」を持っていた。その種類は様々だ。
おとぎ話の竜のように、炎や風、氷を操るもの。彼らが起こす現象は、災害などという生やさしい言葉で表現できるものではなかった。
それは災厄だった。神話によって語られていた世界に降りかかった様々な災厄は、誇張ではなく、紛れもない事実であることを、人は思い知ったのだ。
――しかし、人は神の暴虐にされるがままとなる種ではなくなっていた。
捕らえられた竜の肉体は、人に新たな兵器の視点を与えた。
竜の肉体を依代とし、竜種の操る権能と比肩する力を持つ兵器が生み出される。
その兵器は竜種という神の骸より生み出された機械――「神骸機」と呼ばれた。
神骸機の誕生は人類の戦局を少しだけ改善したが、その結果、人と竜の戦争は千年にも及ぶ大戦となった。