5.おにぎりの場合
~おにぎりの場合~
マリアさんに丁寧にお礼を言って、教会を辞去した。
疲れたな~、物凄く疲れた。
体もだけど、心が特になー。
なんせ色々ありすぎだって。
酔っ払いに始まり、娼家から孤児まで。
うわぉ、バリエーション豊富だこと。
そんなもん、キツイに決まってるでせうが。
だって、現世はただのルーキーサラリーマンだしなぁ、よく持ったと自分でも思うわ。
でもなー、色々と思ったコトがあったのよ。
この世界では、みんな一生懸命生きてるんだよな。
なのに、オレなんて水が飲めない~とか、トイレが~臭い~とか。
どれだけ軟弱なのか、どんだけ現実を知らないのか・・・身につまされたわ。
それとな、教会だ。
オレは前にも言ったけど、宗教キライだ。
でもな、マリアさんみたいな人がいるのも事実。
だから、人間って捨てたもんじゃないなって思った訳だ。
え?れっど?あいつはに関しては保留だ。
あーだめだだめ、自戒してたらまた心が折れる。
1円玉より軽く、バルサ材より脆いんだぜ?おにぎりのはぁとは。
いやマジで。
せめて、海苔を!海苔をくれ!!!!
かーいい海苔をさぁ・・・・・うぅ。
と、文句を言ってても仕方がねーんだわな。
おし、オレも酒でも呑んでみるかなー。
こっちの世界来てからは、呑んだことないし。
こっちの成人はいくつか知らないけど、向こうで成人はしてるから大丈夫だろう。
本場もの(かどうかは知らにゃい)の、エールでも飲んでみようか。
店は・・あ~、例の酒場でいっか。(実は、宿屋の方に部屋を取ってたりする)
あの酔いどれドワーフも、流石にもういないだろうし。
酔いどれドワーフは、まだいやがった。
「ようボウズ、おまえも来たのか?」
「おっさん、まだ飲んでるのかよ!!オレの奢りはさっきで終わりだぞ、それはオレの払いじゃねーからな!!」
「ケチケチすんな!もっと呑ませろ!!」
「情報分は支払ったじゃーねーかよ、大体そうゆう問題じゃねぇ!!!
そんなに金があったら、こんなに苦労するわけねーだろが!!」
「なんじゃと?オマエの奢りと聞いたから財布持っとらんぞ!」
「知るか!誰がいつ全勘定払うと言ったんだ!
情報分の酒は呑ませるといったが、そんなものとっくに済んだ話だろうが!」
「なんだとこのガキャ、ワシに飲ませる酒が無いとでも!!」
「だから、ゼニが無ぇんだよ!!!つかハナシ聞けよ!このクソドワーフ!!!」
と、ここまでやりあった所、ふと周り気になった。
賑やかだったハズの店の喧騒が、静まりかえってることに気づいた。
クソドワーフを見ると、クソドワーフはオレを凝視したまま。
いや、違うな、見ているのはオレの背後だ。
周りの他の酔客全員が、オレの背後に注目してる。
あれ、なんかやべえ・・・!
その時、首筋に冷たい金属の感触が・・・・
そこには、ヘブンを勧めた宿屋の親父が、でっけえ肉切り包丁片手に立っていた。
なんと!オレに気づかせず背後を取るとは!!
(いや、なんとなく言ってみたかっただけなんだけどね。
武道の心得なんぞこれっぽちも無いのに、気配なんて判る訳ないじゃん)
店の親父は、ドスの効いた声でこう言った。
「ボウズ座れや、あとジム、おめーもだ」
「「は、はい」」
「ボウズ、世の中慣れてねぇじゃ済まねえこともある、特にオレの店ではな。
まぁ、一回、今回は見逃してやる。
そのかわり、とっとと払うモン払って出ていきな」
おうふ・・いきなり宿泊拒否キタコレ!
ちょっと待ってくれ、オレ関係ないじゃんか!!
と、さすがにつっこめる度胸もなく、言われるがまま大急ぎ支払いをした。
「おし、ならメシは食ってけ、うちは追剥じゃねぇ。
全うな商いをやっとるんだ、貰ったゼニの分の仕事はするぜ。
(あ、そういやメシ付きの値段だった)
おい!このボウズにメシを出してやんな!定食だ!」
素早く出された定食。(シチューと固いパン)
急いで食べる、味なんぞ二の次だ。
「んで、ジム、テメエはいくら持ってんだ?あぁ??」
「いや、ワシは・・・」
「テメーは傭兵のクセに仁義も守れねーのかよ、あ?」
「いや、そこはそのボウズ・・・」
どすッっと、テーブルから音がした。
親父が、でっけえ肉切り包丁をテーブル突き立てた音だ。
ごきゅり・・・
鳴った喉はオレのか、クソドワーフのか・・・
オレは、とにかく固いパンもなんのその、シチューで押し込みひたすら嚥下。
元は取らねばならん、ゼニにしろなににしろこの世界、体と資本は大切だ。
この間、クソドワーフは微動だにしない。
ビビってないのか、さすがは傭兵やるじゃ・・・ん?
いや、顔に汗がビッシリと浮かんでるんじゃーねーのかよ、歴戦の傭兵なんだろ?
「おう!アレもってこい!!」
と親父はカウンターの中へ叫んだ。
先ほど、定食を出してくれた人間の女性(30すぎの優しそうなカタ)が、なにやら紙を持ってきた。
ニコニコとし、温かみを感じさせる人だ。
しかし、この状況で笑えるのって凄えよね~
あ、これって・・・
「ジム、戦斧おいてけ」
「な、こ、これは・・・」
「おいてけ」
親父の攻撃
親父はジムの斧を質に取った!
ジムは泣いて謝った
でも親父は許さない!
ジムは泣き崩れた
親父が勝った!
「ギルドからの報奨金、来週に出るんだろ?
出たら持ってこい、払えば返してやる」
質って、アンタ・・・
お、奥が、い、いや、闇が深えな・・・・。
「おら、用事が済んだらとっとと出てけ!他のお客さんに席あけろ!!」
こうして、酔っ払いクソドワーフとオレは、日も暮れつつある町の中へ出ていくことになった。
ナンデ、コウナッタ・・