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4.マリア・マリアの場合

~修道女 マリア・マリアの場合~



ヘブンから戦略的撤退した(逃げたとかイウナ)オレは、店が見えなくなったところでへたりこんでしまった。

確かにヘブンだなー・・・。

うぅ、確かにおにぎりは経験値0ではない。

ちゃんと、プロの方にご指導いただ・・・・・げふんげふん。

つーてもな、荷が重いっす。

しょせん海苔さえもない裸のおにぎり、0ではないのもの、果てしなく経験値は0に近い。

まぁ、二度と行くことはないとは思う、うん。

でも、しっかりとサービス券はゲットしてあるんだけどな。


桃色の雰囲気を、追い払って少し考えてみる。

ここまで、どうしても気にかかることが一つ。


戦争


である。

この国(例によって、国名は覚えてない。ツッコミどころ満載な名前だった気がするが)は、

隣国との戦争真っ只中、なんだそうだ。

前線ではないにせよ、この町はそんなに戦時中とは感じられない。

行政がしっかりしてるのか、そんな大事ではないのか?

大事ではあるよな、傭兵や娼家が賑わうってことはそれ以外の意味はないし。

そんなに数は多くないけど、ちらほらと浮浪者と思しき人も目にする。

多いのか少ないのか判んないけど、子供の姿はほとんど無い。

ってことは、そういった施設があるんだろうな。

てか、ある。

次の目的地、がそうなのだ、うむ。


酒場で聞いたところによると、れっどはこの町の教会によく行っていたらしい。

この世界の教会は、言わずとも知れた教会=孤児院。

つまり、教会がそういった施設になる訳だ。

となると、お約束の展開だな、きっと。

孤児を篭絡して、そこから面倒みてる修道女さんと仲良くなる。

そうしてスケベ根性で通ううち、逆に説教されるってヤツだな。

そして教会のために骨を折る!

なんて基本に忠実なヤツだ!



そう思ってた時期もありました。



この国の宗教は、・・・・

よくワカンネ。

だって、おにぎは前世から筋金入りの宗教嫌いだったもん。

まぁ、この国では信仰は建前自由とのこと。

なので、大っぴらにヘンな事を吹聴しなければ大丈夫との説明は受けた。

ちなみに、この町の教会には司教さんや司祭さんはおらず、

修道女さんが、実質たった一人で全てこなしてるそうだ。

修道女(あぁ、ゴロが悪いのでシスターで)のカタはマリア・マリアさん。

年のころは30手前の人間で、細見の中々の美人さんである。

あいつ、オンナ絡みばっかりじゃねーか。

つっこみ所満載だな。


教会は結構大きく、しっかりとした建物に見えた。

走り回る子供達も、栄養状態がそんなに悪くは見えない。

(ガリガリの子供がいないってだけで、市井の子供達とは比べ物にはならないが)

やはり、どの子も顔には若干の影。

酒場で聞いた話だと、ここは身寄りのない子供しかいないとのことだった。

子供の視線に、手ぶらで来たことに罪悪感を感じつつ、

まずはキチンと挨拶をし、早速本題を伺った。



「れっどさんは、この子達、そして私自身の恩人なんです」


へぇー、ここが襲われでもしたのかな?


「こんな戦争の世の中ですが、実は寄付はそれなりに頂けて、なんとか食べることには苦労しなくて済んでいるんです。

でもそれは、酒場を始め各商店さんから寄付であったり、れっどさん含め傭兵さんからの寄付であったり、あと、その、ヘブンのローズさんからも・・・あ、ローズさんのことは絶対内緒にしてくださいね、本人さんから固く口止めされてますので・・・・」


・・・恰好いいな、みんな。


「お気づきでしょうけど、皆さんに寄付の声をかけて廻って頂いたのがれっどさんなんです」


偽善じゃねーか、あのヤロー。


「あ、いいえ、寄付を頂けるそれはとても有難いことではあったのですが、れっどさんは、その違うんです、ただ単に寄付を頂けるだけではないんです。

いつもいつも、こう言われてました。

出来ない、無理だ、ではなく考えろ!試してみろ!と。

子供たちに、私にずっと繰り返し繰り返し言いきかせてくれたんです。

そして、行動するための協力は惜しみなく手伝ってくれたんです。」


「いいか、文字を覚えるんだ。

そして計算を覚えろ。

畑を耕せ、食べ物を自分達で作るんだ。

何が売れるのか何が売れてるのかを、町で見回って調べるんだ。

金は使えば無くなるが、稼げばまた増える。

稼ぐには働く、商いをするしかない。

だから、働け、仕事がな無いなんてことはない。

どんな細かい事でも、何が仕事になるのか常に考えろ。

字を書けれたり、計算できれば商人のとこで働ける。

農業覚えれば、農家で働ける。

食べ物も余れば、売ることも出来る。

何が売れるのかが解れば、商人でも農家でも手伝いいって稼ぐことが出来る。

何が売れるか売れているか、それは大切な情報だ。

情報自身も売れるし、それを元に商売もできる」


「そう言って、顔をお見せになられたときは字や計算を教えてくれました。

 時には畑も一緒に耕して下さいました。常に子供たちと一緒に、です」


そう話ながら、教会の裏側を案内してくれた。

そこは一面のジャガイモ畑だった。


「とっても小さな畑だったのを、れっどさんが手伝ってこんなに大きくしてくれたんです。

それもあくまで手伝いだって言って、私と子供たちが作業する形で、畑の作り方を教えてくれたんです」


ん?偉そうに、口だけなのか?

農業自身は手伝ってないのか?


「あ、待ってください、れっどさんは耕し易い様に、色々な道具を作ってくれたんですよ。

今ある道具、全てれっどさんが作ってくれたんです。

そして、何故れっどさん自身が手伝わないかも、説明してくれたんです」


マリアさんに次の言葉を促した。


「オレが最初に全て耕すと、次は誰も耕す事が出来なくなる。

だから、まずは自分たちで耕して、どうやってやったかを覚えるんだ」


「勿論実際のところ、大きな石をどけたり木の根っこの処分とか、力仕事は全部やってくれました。 

そしてジャガイモを育てるようにって、教えてくれました。

実はそれまで、ジャガイモって毒だと思ってたんですよ。

でもれっどさんは、違うよ、ほんの少しの部分に毒があるだけで、あとは大丈夫だって。

芽だけらしいですね、毒なのは。

それどころか、寒さにも強くて簡単に育って・・・。 

そしてなにより、とても美味しいものだって、教えてくれたんです。

料理方法もですよ、全然知らなかったので、おかげ様で餓えることの心配がなくなりお客様にも少しはお出しできるようになったんですよ。

あ、よかったら如何ですか?れっどさんから教わったジャガイモ料理、召し上がっていって下さい」


嫌も応もなく、教会の中へ入れて頂き、ジャガイモ料理を頂くことになった。

教会は落ち着いた雰囲気で、よくある厳かな感じではなく温かみのある合宿所みたいなとこだった。

・・・今の話の後でなきゃ、落ち着けたと思うが。


「さぁ、どうぞ、是非お召し上がり下さい」


そう言って出されたのはこふきイモ、フライドポテト、そしてなんとコロッケだ。


「このコロッケって料理なんて、とっても美味しいですよね。

お肉が少し、それも切れ端やすじ肉の部分なのに、ジャガイモと合わせるだけでこんなにも美味しくなるなんて、とても驚きました」


そのコロッケを、一口齧る。


懐かしい味が舌に蘇るとともに、現世での様々な思いでが溢れてきた。

首を振りこの世界に向き直すと、

目に映るのは満面の笑顔の子供達とマリアさん、これこれほっぺにパン粉が付いてるって。

パンとコロッケ、シンプルだけど旨い、旨いんだよなぁ・・・。

コロッケを学校帰りに買って食べたりさー。

母さんの手作りコロッケ・・・・あれ?

どんな顔だったっけ、かあさん・・?

あ、違う、この顔はマリアさんだ。

あれ、だんだん、マリアさんの顔が、子供たちの顔が歪んできた。


あれ、なんか汗出てきた。

オレの視界がボヤけた。

ちがう、汗だ、汗に決まってる。

ちと、目に染みただけだ。


「あのー、おにぎりさん、お願い一つだけいいですか?れっどさんを探してるなら、お会いできた時でいいですから、マリアと子供達からだといって、次のように伝えてください。


 コロッケ、もっと美味しくなりましたよ、無くなる前に食べに来てくださいって」


了解、この任務は最優先として実行致します。

証に、おにぎりの唯一のスキルを。

90度おじき!!!!



・・・・・


人間って、捨てたもんじゃねーな


うん。


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