10.ジョー・カーペンターの場合 その2
~鍛冶屋 ジョー・カーペンターの場合 その2~
魂の叫び(思いつくままの悪態)が口から出そうになった瞬間、店の扉が開いた。
そこには、先ほど話をしたばかりの受付嬢さんの姿があった。
「あぁおにぎりさん、足が速いですね。
あわてて追いかけたんですが、追いつきませんでしたよ」
へ?とハテナマークを浮かべてると、ジョーさんとなにやらやり取りを始めた。
なんでも、ギルド自体がこのお店に用事があったらしく、受付嬢さん自身がついでに案内しようと思ってくれていたそうだ。
ところが、オレが先に着いてしまったとの事。
受付嬢さん、ありがとう!
受付嬢さんの醸し出す癒しの空気はオレのささくれた心を落ち着かせ、先ほどの怒りはなんとか消えた。
癒し系、素晴らしい威力である、うむ。
動く心のオアシス、と命名しよう。
二人の話が一段落したらしく、ジョーさんがこちらを向きオレに話しかけてきた。
「あ~、おにぎりさん?すいません兄弟がご迷惑をお掛けしたかけたみたいで。
お詫びと言ってはなんですが、短剣を一本進呈致しますよ。
この町も、いくら安定しているとは戦争中です。
まだまだ物騒な面もありますから、我が身を守るのは大切なコトなので是非お持ちください。
それと、そのお持ちのナイフも貸してください、研ぎますから」
ジョーさんは、おれが下げている護身用とは名ばかり、主に雑用に使うナイフを指さした。
素直にナイフを渡すと、ジョーさんはすぐさま研ぎ始めた。
「ではジョーさん、おにぎりさんをお願いしますね」
と、動く心のオアシスさんは去っていかれた、残念至極である。
「・・・おにぎりさん、おにぎりさんはれっどさんと同じ髪の色と目の色なんですね。」
ナイフを研ぎながら、真剣な面持ちのジョーさんはふと切り出した。
不意打ちかよ!!!それがオレの目的なんだよ!!!
「あぁそうだったんですか、これは大変失礼しました。
作業が終わり次第お話しましょう」
と、研ぎが終わったらしくナイフを渡してきた。
それと同時に、失礼~と言って体を触ってきた。
この野郎!そっちもか!!とはつっこまなかった。
目が真剣のまま、仕事モードだったのよ。
「いきなりすいません、すこしサイズと筋肉の確認をしたかったものですから・・・」
簡単に腕の長さを測り、二の腕のを押さえる。
上腕二頭筋を確認してるのか、やっぱプロなんだ~、
と感心してると、一本の短剣を手渡してきた。
「では、おにぎりさんならば、この短剣がいいと思います。
一度抜いてみて下さい」
渡された短剣は、刃渡り25cm程度、現世の感覚での大きさなら軍用ナイフみたいな感じ。
ただし、あんな無骨な形ではなく両刃のシックなデザインだった。
まぁ、ペーパーナイフを大きくした様な感じとでも言えばいいか。
重さもしっくりとくる、さすがだ。
「切れ味よりも、耐久性をメインにしてある短剣です。
あくまで護身用、剣の1撃に耐えれるものです。
ですが、今後本職をアサシンにするのではない限り短剣をメイン武器として戦うのはお控え下さい。
失礼ですがおにぎりさんの体は、戦闘訓練を受けておられないと思います。
その様な状況では、戦うことなんてまず無理です」
さすが、クソドワの兄弟とはいえ、プロの鍛冶屋さん。
凄え、よくわかるものなのねー。
「なので逃げる、これが一番です。
わたしの短剣は、いわば保険。
これを抜く日がこないことを、祈っております。
あと、獲物の解体にも使わないでください。
これは簡単な理由なんですが、耐久力を上げた分切れ味が余りありませんので。
そこまでの切れ味はありませんから、そのためにナイフを研いでおきました」
そうだ、基本を忘れてはいけなかった。
オレは現世生まれの現代人、この世界ではプチっとつぶされるG程度の存在。
だから生きる生き残る、これを優先しなきゃ。
「お待たせいたしました。
では、れっどさんについてお話しましょうか」
といって、ジョーさんはお茶の用意を始めた。
流石はエルフ、こうやって見てると様になる。
シモネタさえ言わなければ、だけどな。
「ハーブティー、如何ですか?
いえいえ、私も飲みたいんですよ」
そう言って、ジョーさんは語り始めた。
ジョーさんが武器に拘るのは、プロ意識は勿論だけどその生い立ちにあるらしい。
なんでもエルフなんだけど魔力に乏しい村の出身だったので、自然と手に職をつける方向になったそうだ。
(魔力に乏しいのはジョーさん一族の特性なのか、ジョーさん個人の特性なのかはさすがに聞けなかった)
ジョーさんは鍛冶屋を目指して、色々武器を作っていたんだそうだ。
そんなある時、村が野盗に襲われた。
村にみんなは応戦したが、戦況は苦しかった。
ジョーさんも、自分が作った中の最高傑作のロングソードをもって参戦した。
結果
3合ともたず、剣を跳ね飛ばされたそうだ。
その剣を振れる、筋力も体格もない。
このことに気づいたときには、死を覚悟したときだったそうだ。
しかし、救いの手が現れた。
通りすがりの傭兵、あのクソドワだったそうだ。
そうして友誼を結んだ二人(ここは割愛)、ジョーさんはこの町で店を構えることになった。
そんな、ある日クソドワが一人の客を連れてきた。
それが、れっどだったらしい。
ヤツの持っている剣に興味を引かれたジョーさん、メンテナンスを無料で行うのを条件に調べさせてもらったそうだ。
「長さは刀身が約90cm、柄が30cm弱で、片手でも両手でも使える様になってました。
片刃で若干の反りがあり、切っ先は鋭く鋭角に研がれてました。
同じ長さのロングソードより遥かに軽く、これは刀身の幅が半分くらいしかないせいでしょう。
また重心が手元寄り、つまりロングソードや斧とは異なる、切れ味優先の剣なのでしょう」
おいおい、お約束な展開じゃねぇの。
厨二のパターンか?
「歯は非常に鋭く、手を走らせるだけで斬れるレベルでした。
刀身を観察すると2種類の鉄が使われているらしく、波型の紋様が見えました。
非常に鋭い切れ味を持つのは理解できるのですが、あの剣で切りあえばすぐに折れる、そんな印象でした」
ビンゴ!つうか
そのまんまじゃねえか。
「でも兄弟曰く、実際にその剣で戦争になんども参加しているとのこと。
私が拝見したときも血曇り一つなく、本当の話なのかどうか訝しんだのをよく覚えています」
さすが鍛冶屋さん、素人のオレよか詳しいじゃん。
って、当たり前だな。
「しかし興味があり、詳しく話を伺いたかったのですが・・・・」
ん?
「殆ど言葉を話されず、承諾も得られなかったのです。
殆どは、兄弟が代わりにしゃべっているようなものでしたから・・」
無口!?
「そんなある日、兄弟が店に来て一言、れっどが去った、と。
兄弟は、れっどさんを凄く気に入ってましたので。
私の兄弟とは違う、その背中を預けられる、そんな感じでした。」
そら、あんたの属性の兄弟とは違うだろうが!!
「恐らく、昨日の醜態は、れっどさんの名前が出て嬉しかったのだと思います。
兄弟の代わりに、重ねてお詫び申し上げます」
あぁ、いえこちらこそ。
つっこみもあったけど、もの凄い情報も得られたし
こちらも、ジョーさんありがとう!
但しクソドワについては、まだ保留だ!
「私が話せるのは、ここまでです。
あ、いえ、もう一つありました。
れっどさんの剣についてですが、初めてみる剣だったので色々調べたのです。
そうすると、なんでも東の国では、その様な剣があるとの噂でした。
れっどさんの剣がそうであるのか、東の国にそんな剣があるのか、一切は不明ですが、
お耳には入れておこうと思います」
ハーブティーは、ミントが利いていて素晴らしく美味しかった。
クソドワ絡まなきゃ、物凄くいい人なのね。
収穫は、あった。
情報だ、もの凄く大きな。(倒置法)
ギルドで、もう少し調べて
色々と考察してみるかな。
クソドワ、中々確信占めているじゃん、やっぱ礼しとくかな。
酒以外で。
では早速、受付嬢さんに会いにいってこよ~