1.ジム・スミスの場合
~ドワーフの傭兵、ジム・スミスの場合~
「ん?あぁ、”赤影”のこったな、なんだ、ニンジャとな?
ニンジャとはなんだ?オマエがなんの事を言っとるのか、ワシにサッパリは判らんわい。
まぁええ、それでも呑ませてくれた酒の分くらい、話は教えてやるがな、わはははは。
それで、ヤツの何を聞きたいんだ?
ヤツの事なら何でもいいと?
なんじゃ、オマエあヤツにご執心・・・待て、すまんすまん、そう怒るな。
ふむ、いいじゃろう。
ワシも大した事は知らんがの」
今は昼過を廻ったところ、ガランとした酒場で赤ら顔のドワーフのおっさん、ジム・スミス氏に酒を呑ませ情報を聞き出そうとしている所だ。
酒場とは書いたが正確には宿屋兼であり、異世界の定番と呼んでもいい場所である。
この匿名希望みたいな名前をしたおっさん(ドワーフ)は、現役バリバリの傭兵だ。
このおっさんにわざわざ自腹を切ってまで何を聞きたいか、それは”赤影”なる人物についてである。
当初、普通にギルドに相談(赤影について、おせーてくれ)を持ち掛けた所、居合わせたこのおっさんを紹介された。
無論、情報料が必要とのことだったので(まぁ、この世界それが当たり前)、まずは一杯と誘ったのが過ちだった。
このドワーフ、酒場にはいった途端小さいタル(目算では5リットルは入りそうなヤツ)で酒を注文しやがった。
3秒で呑み干し、はやくも2杯目である。
お約束とゆーか、この吞んだくれのドワーフめ!
さらっと書いたが、ここは異世界。
唐突だが、オレは異世界(この世界)への転生者、である。
正確に言えば、今いる世界が異世界になるのかな?ま、便宜上そうしておこう。
もっと細かく言えば、転生なのか生まれ変わりなのか輪廻転生なのか、
そういった事は全て不明のまま、全く判らん。
この世界に来て、最初に悩んだのはこれなんだよなー、いやホント。
結局悩んでも、次のことしか判らんかった。
今判っていること、
・体の大きさ(概略の年齢)、人種、性別等はそのまま。
(だってこの世界人間以外の亜人間もいる。
亜人間の表記が良いのか悪いのかは不明だけど、日記なので許して欲しい。
あ、よくある金髪になったり美形になったりとかは無かった、ちくせう)
・過去の記憶あり。
(過去、と言うか元の世界である現世、平成日本のな)
・気づいたらまっぱ。
だった事。
最初はさ、異世界転生!?もはや定番だな~とか、オレTUEEEEEE出来るぜぇ!!とか、そう思った瞬間もありましたよ、いやホント。
でも、死んだ記憶は無いし、
(死んだんだろうなとは思ってるが、なんせその辺の記憶はサッパリない)
神様に出会ってチートを貰えるなんてことも無かった。
ならば、現代知識で無双する!!
最新科学を導入してでヒャッフー!!
オレが勇者になんぜ!!
って当然思うよな?男なら?
(あ、女でもかな?そこ!厨二の定番とかイウナ)
だが現実、実際にリアル異世界に来てみれば判る。
そんな、甘いもんじゃねぇ。
実際に来てみろ?
(そんな機会、まぁねぇとは思うが)
本当~~~~~に、無双やヒャッフーって出来ると思うか?んん?
例えば・・・
・メシがない
衛生面から、食材が食べるれるものかどうか判んない。
(素材そのものは、現世と種類は同じみたいだけど、現世みたいに品種改良されてる訳ではない。
食えても不味いのはデフォ)
・火が起こせん
もまいら、木をこすってマジに火起こしやってみそ?一回で起こせたら上等だ。
出現したとこが雪の中、つまり寒いとこだったんでな・・・・文字通り昇天しかけたわ。
・トイレがない
いや、あるにはある。
が、水洗なんてものは当然無く、非常に臭う。
(そのトイレで用を足す勇気を、絞り出すのが一番の苦労。
しかも、しかもだよ、紙はなく葉っぱで拭くんだYO!)
下水って凄え技術なんだと、骨身に染みることになったよ・・・orz
・水がない
井戸はあるけど、生水飲んでも大丈夫なのかが判らん。
下痢くらいならまだしも、ややこしい寄生虫とか入ってたら・・・・・。
・魔法
魔法なんてものも存在するらしい。
実はこの日記も魔法の恩恵を受けてるそうだが、ま、それはおいおい。
この魔法、使い方が判んないし、オレに使えるのかどうかさえも判んない。
まぁ、理屈そのものが大半の人にとって不明だそうだ。
etc・・・ETCがあった自動車が恋しヒ><
馬車はケツが痛くて、酔うんだよ。
初っ端にちゃんと洗礼を浴びたってーの!
これら、ひたすら生々しい現実に打ちのめされ、あっとゆう間に心が折れた。
見事に粉砕された。
今思えば、オレを拾って支援してくれた方には大変申し訳なかったが、与えられた部屋に一月ほど引きこもっちまった。
怖いよママン・・・。
まぁ、それでも諦めずに心優しく支援して頂いたおかげで、なんとか心に添え木を充てることができた。
本当に心の底から感謝してるが、またそれもおいおいに・・・・
結論として、(つうか、これしかないんじゃね?)オレはこの世界では生きてはいけない、と。
スマ●どころかゲーム機はない、コンビニは無い、エロ動画も見れない、と、ととと、また気持ちが萎えてきたっすよ・・・。
だ、だから、元の世界に戻る!!!とまぁ、これしかない訳で・・・・。
小説やゲームではご都合主義のように元の世界に戻れる、或いは方法が示される。
が、がだ。
真面目に考えてみてくれ、もまいら。
まず、どうやって戻るかの方法が判らない。
そもそも、戻れるかどうかも判らん、悲しい事に。
大体、支援者の方でさえ、別の世界から来た~って言っても信じてくれなかったし。
なんでやねん!!て思ったけどさ、
フツーに考えたら、そんな事言ってるヤツがいれば、こう思うでしょ?
バカじゃねーの!って。
それが常識、それが現実、デスヨネー。
そんな状況で、元の世界に戻る?
そんな情報、欠片も存在してなかった。
まぁそれでも、仮に戻れるとして、だ。
そんな展開で、提示された条件クリア出来ると思うのか?
いや簡単な方法だといいんだけどさ、これがそれこそ厨二の展開ならどーするよ?
魔王(実際にいるそうだ)倒してこいや(いや、そうすれば戻れると決まった訳ではないけど)と言われて、倒せるか?
世界の奥に眠るひとつな●の大秘宝、ゲットできるとでも思うのか?
近所の若妻、かどわかしてこい!!てんなら、頑張るけどな。
(嘘です、サラリーマン1年生、90度おじきしかスキルないのに出来るハズがない)
またも折れた心がバラバラになって、3枚におろされ刺身になる直前、一つのことを聞かされた。
オレより先に、転生者らしき人物がいる!!ってことを。
正確には、自称別世界の人だそうだ。
その人は、別世界から来たんだ~、異世界転生を果たしたんだ~!!って言い廻ってDQN扱いされたそうだ。
んで、現在はスネて旅に出たとのこと。
子供かよ!と思わないでもなかったが、オレもある意味そうだしなー。
前述の通り別の世界から来た~って声を張り上げるとDQN以外の何者でもない。。
でも、手掛かりには違いないので、まずはその人から話を聞こう!!まずはそこからだ!!
と考えた訳よ。
ワゴンの特売タイムサービスセールスに並ぶ寸前の心に、添え木をしテーピングを充てて旅にでた。
旅に出るにあたっては、支援者の方からの手厚い支援(路銀・服装・この日記等)があった事を強く記載しておきたい。
そして、南へ、その人物が向かった方へ旅立ったんだよな。
この日記は、その人物の情報、ひいてはオレが現世に帰るためにつけ始めた記録だ。
あ、オレの事か?
名前は・・・そうだな、現世の記憶を(つうか日本だな)忘れないためにも”おにぎり”としておこう。
そう、これはオレこと”おにぎり”が、現世に戻るための壮大な記録なのだ!!!
(後記付けたし)
いあ、マジでさ、これ記録とはちがうんじゃね?