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君と語る物語  作者: 浅井 岸
第一章 迷いながら少しずつ
9/12

二人の距離感、そして

遅くなりました。

よろしくお願いします。

 今日はジャックさんと一緒に出掛けている。朝からぼーっとしている私を見て気分転換にと誘ってくれた。


 時刻はもうすぐお昼になろうかとしていたため、行き交う人達で溢れていた。


 「ちょっと待ってて」


 途中ジャックさんが何かを買ってこっちに戻って来る。


 賑わいをみせる通りを抜けて、建物の間を歩いていると広場に出た。そこには何人かの子供達が元気に走り回って遊んでいた。


 ふと備え付けられたベンチの方に目を向けると、見覚えのある人が座っていた。


 テスタさんだ。


 陽の光を受け止め美しく輝き、時折吹く微風(そよかぜ)に銀髪が揺れ、手に持っている本に視線を落としている姿はすごく絵になっていた。


 「やっぱりここにいたのかテスタ、どう、君も食べるかい?」


 「ふん、俺がここにいることを知って来たんだろう?回りくどい言い方はやめろ。それは頂くがな」


 そう言って手に持っていた包み紙を受け取った。


 「詩織もどうぞ」


 「ありがとうございます」


 その後、テスタさんが横にずれて私、ジャックさん、テスタさんの順番で座った。


 包み紙を開くとハンバーガーに良く似たものというか見た目は全く同じ食べ物だった。出来たてだったみたいで湯気と一緒に美味しそうな香りを運んでくる。


 「これは鶏肉とレタスに特製ソースをパンで挟んだ手軽な食べ物なんだ。詩織もきっと気に入ると思うよ」


 ぱくっと一口食べたら中から熱い肉汁が溢れ出てきて口の中に一気に流れ込んできた。


 「あつっ」


 思わず口に零してしまう。


 「……あ、美味しいです」


 最初こそ熱さが一番に来ていたけど慣れてくると濃いめのソースに鶏肉から溢れ出てくる肉汁、みずみずしいレタスが重なり合って絶妙な味を演出していた。


 「あっ、ごめんね詩織。飲み物を買うのを忘れてたよ。ちょっと待ってて買って来るから、テスタ少しの間詩織を頼んだよ」


 「いちいち大げさだなお前は、分かったから早く行ってこい」


 「あの――」


 私は大丈夫ですと声を掛けようとしたら私を見て「遠慮しないで」と言い残してジャックさんは行ってしまった。テスタさんと二人きりというこの状況は少し気まずかった。


 横目で彼の様子を窺っても特にこちらに気にすること無く、黙々と食べ続けている。一方的に気にしすぎるのも良くないし私も食べ始めた。


 「順調に進んでいるのか?」


 いつの間にか食べ終えて本に視線を落としたまま淡々とした口調で聞かれた。突然投げかけられた言葉に一瞬何のことだろうと思ったけど、直ぐにタスト語の事だと理解した。


 「まだ分からない事ばかりですけど少しずつ覚えています」


 「そうか」


 それだけ言って本のページを捲った。


 中々会話らしい会話が続かない。そんなことを思ったのと同じくらいに私も食べ終わってしまった。


 ただじーっとするのも変だし、だからといって話しかけようにも相手は本を読んでいるから話しかけづらいし、うーんどうしよう……。


 「はぁ、そんなにそわそわされると気になってしょうがない。話し相手になってやるから落ち着け」


 本を閉じて呆れた表情を私に向ける。


 「そんなにそわそわしていましたか?」


 内心は確かにしていたかもしれないけど、それ以外はいつも通りだったはず。


 「むしろ鬱陶しいくらいだったぞ、小さい子供じゃあるまいしあいつが戻って来るまでの間も落ち着いて待てないのか?」


 「……すみません」


 テスタさんは一つ息を吐いて口を開いた。


 「だがお前が気まずくなるような原因を作ったのは俺だ。あいつほどお人好しじゃないが聞かれた事にはちゃんと答える」


 私とテスタさんが座っている間にある空間、そこはジャックさんが座っていた場所。けれどこの空間がお互いの距離にもみえる。近いように見えて遠く、親しいようで複雑。私達は出会って日が浅くタイミングも悪かった。皆からすれば'大切な日'に私が来て、国を立て直すという話を聞いてその時にジャックさんからの'誓いの宣言'だったり、テスタさんとの衝突だったり色々あった。


 きっとこの時にあった衝突のことをテスタさんは原因と言っているのだろう。確かに今でも少しテスタさんは怖いけど嫌いにはなれない。あの時彼が言った言葉は今でも覚えている。それを目に見える形で見せることができたら今あるこの距離感は無くなっていくと思う。


 「テスタさん」


 私の顔を見て一瞬笑みを零して。


 「お前は不思議な奴だ、顔つきがまるで別人みたいに変わっている。何を考え思い出したかは知らないがな。それで何だ?」


 「私の母はテスタさんにとってどういう存在でしたか?」


 だから先ずはお母さんの事を参考にしようと思った。何かヒントを得られるかもしれないからだ。


 「なるほどそう言うことか、今のお前には難しいかもしれないが悪くない」


 私の質問の意図を表情とその内容で理解し、テスタさんは思い出すように一つ間を開けて続けた。


 「俺から見た華那は頼りになる存在だった。個々の能力の見極め、何に優れ何に弱いのかを知り、それぞれが抱えていた問題を理解し受け入れてくれた。何より一番言って欲しかった言葉を俺にくれたんだ。あの一言で俺はどれだけ救われたか」


 どれだけ大きい存在だったのかはテスタさんの顔を見れば直ぐに分かった。お母さんを参考にしようと思ったけど、とても出来そうにない気がして話を聞いていく内に段々私の今までやって来たことが小さく見えてきた。私の存在が小さくなるような気がした。


 「お前はあの時の事を覚えているか?」


 不意に掛けられた声に顔を上げた。


 「お前はあの時俺から目を逸らさなかった、その時の強さと思いを忘れるな。自分に無いものを他人と比べようとするな、自分に無いもので勝ち負けを決めようとするのでは無く有るもので勝負しろ」


 私には有ってお母さんには無いもの。


 「それに自分の力で気が付いた時、俺はお前を認めてやろう」


 「あっ――」


 今本当に一瞬だけの間、テスタさんが微笑んだような気がした――


 「深く考えなくていい、どうせ今のお前では無理な話だ。それにしてもジャックの奴いくら何でも遅すぎだろ」


 確かにそろそろ戻って来ても良いはずなのに姿が見えない。いつの間にか遊んでいた子供達の姿も無くなっている。


 周りに目を向けていると建物の間から伸びた人の影がこっちに近づいているのが分かる。でもまだ姿が見えない、もしかしたらジャックさんが戻って来たのかもしれないと待っていると急に視界が塞がれた。


 「テスタさん?」


 「これで頭と顔を隠せ」


 急に視界か塞がったのはテスタさんが着ていたコートを掛けてくれたからみたいだ。でもどうして急にそんなことを?


 「ジャックが中々戻って来ない訳だ。お前は声を出すなよ面倒な事になる」


 耳元で注意を促してくれる。足音が近づくに連れて緊張が走る。完全に視界塞がれて無いため足下とその少し先まで見ることができる私の目に影が映り込んだ。誰かがもう直ぐ目の前に居る。


 「久しぶりだなテスタ元気にしてたか?中々城には来てくれないしなお前」


 「そんなくだらない話をしにわざわざこんな所まで来たのか?」


 「勘弁してくれよそんなわけないだろ?君は頭だけは使えるみたいだし俺の頭脳としてこき使ってやるって言ってんだよ。わかったらさっさと付いて来い、昔のよしみでここまで足を運んでやったんだから」


 「生憎もう既に先約済みだ、分かったら俺の前からさっさと消えろこの裏切り者が(・・・・・)


 !?確かに裏切り者って、じゃあもしかして今目の前に居るこの人が――


 「おいおい、王に向かってその態度は無いだろ?」








 


 






 ――アドアラーさん……?










 


 




 


最後までお読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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