夢の中で
大変遅くなりました。
よろしくお願いします。
何事もなく夕食を済ませた後はジャックさんと一緒に洗い物をして少しゆっくりしたあと、お風呂に行って今日の勉強した疲れを取る。
お風呂から出たらジャックさんにお休みなさいと言って自分の部屋へと向かった。
部屋に入ってすぐにベッドに倒れ込んだ。肉体的に疲れたわけじゃないけど、何かを覚えようとするとやっぱり頭を使うし、早く覚えようとするとその分多く頭を働かさなければならない。
だけどこれは自分で決めた事、ここに来てジャックさん達の話を聞いてから毎日思っていること、何度も繰り返し言いながら心に落とし込んで気合いを入れるしかない。
視線を机の方へと向ける、そこには開かれたまま置いてあるアドアラーの日記。
それを瞳に写しながら私は目蓋を閉じた――
■ ■ ■ ■ ■ ■
あれ?確かに眠ったはずなのに……起きてる?
夢?それにしても意識がハッキリしているような……?それにこの場所前にもどこかで見たような……
「――やあ!」
「わあ!……痛たた」
不意に後ろから掛けられた声に思わずビックリしてしまい転んでしまった。
「そこまでビックリすることはないんじゃない?はじめて来た場所じゃあるまいし大げさだよ。だけど本当に良いリアクションするね、からかいがいがあるよ」
「あ、君はこの前夢で会った」
「そうそう、ところでこの前はよくも僕をコケにしてくれたね。今回はたっぷりいじめてあげるよ」
可愛らしい笑顔がどんどん歪んでいく。なぜだか分からないけど周りに黒いオーラのようなものが漂っている。
「い、いじめは良くないと思います、よ」
「だーいじょうぶ愛あるいじめだから。さて少しキミの頭の中を覗かせてもらうよ?」
特に私に触れること無くその場で目を閉じて佇んでは時折うんうんと一人頷いていた。
「なるほどねじゃあ始めようか」
「……何をですか?」
「キミはさーここに来てほぼ毎日タスト語を覚えるためにお勉強頑張っているみたいだねー?そこで僕から良い提案があるんだけど聞きたい?」
「……」
「そんな顔しないでよ、キミの為になるお勉強なんだからさ♪あと用意はもうしたから安心してね」
何も無かった白い空感に机と椅子が現れて机の上にはノートと筆記用具それにタスト語マスター初心者用と書かれた本が置かれていた。
「向こうでも勉強こっちでも勉強。そんなキミに僕からのもう一つプレゼントがあるよ」
「少し嫌な予感がするんですけど」
「いやだなーそんな顔しないでよ、キミも感じているとは思うけどキミの精神は今ここと繋がってい
る。不思議な感じがしない?夢にしては意識がハッキリしてるし感覚もある上に妙にリアルさを感じる。まぁ要するにこれから朝までお勉強コースってこと、中身は起きているけど身体の方はちゃーんと寝てるからさ。それじゃ――はじめようか?」
「……はい」
ここまでされたらもう頷くことしか出来なかった。
それからはひたすら単語の書き取りが続いた。結構な時間書いていたせいで手が痛くなってきた。横に居る彼に少し休ませて下さいと視線で訴えかけるけど、返ってきたのは満面の笑みで握り拳を掲げている姿だった。
それを見て思わず苦笑いが零れる。仕方なく作業に戻ろうとした時にまだ名前を聞いてなかった事に気づいた。
「あの」
「ん?」
「そういえばお互いの自己紹介がまだでしたね。私は詩織です君は?」
「僕はリューグナーだよ」
「よろしくお願いします」
「……ん」
手を差し出して握手を求めたらリューグナーくんもそれに応えて握り返してくれた。
今まで疲れていた私の手がとても柔らかい幼い手に包まれている。マシュマロを思い出させる感触に思わずにぎにぎしてしまう。
「どさくさに紛れて休んだあげく僕の手で遊ぶとはよっぽどバカにしてるとしか思えないなー。はいこれ追加ね」
新たに書き取りが追加されました。リューグナーくんは容赦がないです。
「おっとそろそろ時間みたいだ」
「……長かったです。まさか本当に休憩無しでさせるなんてリューグナーくんはなかなかの鬼ですね」
「なーんだまだまだ余裕ありそうじゃん。どうする?まだやっても僕は全然構わないよ?」
「いじわる言わないで下さい」
「まっいいや、いじめは成功ということでこれで許してあげるよ」
「ありがとうございます」
――やっと終わった
そう思った瞬間に私の目の前に砂嵐みたいなノイズのようなものが走る。目に映っているものが途切れ途切れにみえる。
さっきまでハッキリ見えていたリューグナーくんの姿にもノイズが走っていた。
「あーあ、少し無理しすぎたみたいだよ。まあここまで長い時間キミに干渉していたらそうなるかー」
頭を掻きながら平然として言っているけど何が起こっているのかわからない私は不安でいっぱいだった。
「安心しなよ別に――」
どんどんそれが激しくなりついには声も聞こえなくなった。
上下左右めちゃくちゃになり彼の姿もだんだんと原型を留めきれなくなっていた。白い空感が剥がれ始めて崩れて行く。はじめて見る光景に恐怖のあまり立つことさえ出来なくなり膝を着いて両手で自分の視界を塞いだ。足場も無くなり浮遊感が襲った。
「夢なら早く覚めて――」
――詩織
頭の中に聞こえた私を呼ぶ声。
身体に襲いかかっていた浮遊感は今はもう無い。そのかわりに暖かいなにかが私を包んでいるのがわかる。
抱きかかえられているのだろうか?だとしたら誰が?
塞いでいた両手をどけようとしたら優しく手を添えられた。
――詩織は見ない方がいい、まだここは君には耐えられないからもう少し大人になってからだ
そのまましばらくしてそっと地面に降ろしてくれた。
――また会おう、詩織
その言葉を最後に私は目を覚ましたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
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