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君と語る物語  作者: 浅井 岸
第一章 迷いながら少しずつ
6/12

最初の一歩

よろしくお願いします。


 「でも今日はもう遅い明日から始めようか、色々あって疲れただろうし詰め込み過ぎてもあまりよくない、今日はもうおやすみ」


 ジャックさんが気を遣ってそう言ってくれる。確かに今日一日たくさんの事があった。気を張りすぎても良くないしお言葉に甘えて今日はもう体を休めることにしよう。


 「お風呂の準備が出来ているから入ってくるといいよ」


 「お風呂があるんですか?」

 

 「元々この世界の文化はそれほど遅れてはいないよ。話を聞く限り日本と比べると多少は劣るけどね。着替えは華那さんのを使って明日必要な物を買いに行こうか」


 「はい。ありがとうございます」


 私はこの家から外に出ていないため勝手に決めつけていた部分があった。でも実際は街並みも日本の景色と大差は無いらしい、ただ高層ビルなどは無いみたいで一番高い建物は国王がいるお城らしく、大半の建物は木造の家でお城にだけコンクリートみたいな頑丈な物を使用しているらしい。


 私はお母さんが使っていた部屋に行き替えの服と下着を手にお風呂場へと向かった。


 かごの中に着ていた服を入れてドアを開けた。浴槽は結構広く私が体を伸ばしても余裕があるくらいの大きさでシャワーも付いていた。


 お湯を軽く浴びて湯につかる。


 「はぁ~」


 身体の底からモヤモヤしていたものが一気に抜け出て気分をスッキリさせる。


 「いい湯だな~気持ちいい」


 やっぱり無理しすぎていたのか体の力が抜けていった。


 「……明日からがんばろう」


 何時までも脱力させているわけにはいかない、私にはこれからやるべき事が増えてくるのだから。


 お風呂もそこそこに私はジャックさんがいるリビングへと向かう、私の手には母の形見である本――アドアラーの日記が握られている。これが何なのか最後に聞いておこうと思った。


 「あの、ジャックさんこれなんですが」


 「アドアラーの日記、詩織が持っていたことに驚いたけど、華那さんが持ってたんだね」


 ジャックさんがどこか懐かしそうにその本を取る。


 「もしかして今日来ていなかった人って」


 「……そうだよこの日記を書いた本人。アドアラーさ」


 その言葉を聞いて私は疑問を口にした。


 「テスタさんが言ってましたけど、どうして裏切り者なんですか?」


 ジャックさんは苦笑いしたあと本を返してこう続けた。


 「彼は華那さんに誓いを立てたにもかかわらずそれを破り、ここから出て行ったんだ。華那さんが居なくなる三日前にね……でも華那さんは彼を信じていた、信じていたからこそ、この国の名を彼の名前と一緒にしたんだ」


 「それでアドアラー王国」


 「そう、だけど彼は――やめよう寝る前に話す事じゃない、これは返すよ詩織が持っておくといい」


 ジャックさんは本を返してくれたあとに「寝室は華那さんの部屋を使ってね」と言って私の頭を撫でたあと「今はこのくらいで許して」と言ったジャックさんの表情はどこか寂しそうだった。これ以上は聞かない方がジャックさんの為ならこの話はもうやめにしよう。後のことは私が言語を覚えて自分で読んで確かめよう、アドアラーさんが書いた日記ならきっと何かわかるはず、明日から猛勉強だ。


 ジャックさんと別れお母さんの部屋に入り、ベットに潜り込んだ。


 掃除はこまめに業者さん達がやってくれていたみたいですぐに使えた。はじめて入った時に埃が気にならなかったのはそのおかげだ。


 施設の時に使っていたベットよりふかふかで気持ちいい、これならすぐに眠れそうだ。今日一日の疲れと相まって眠気がすぐに襲ってきた。


 おやすみなさい。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■




 夢をみた。


 白い空間で何も無い場所。


 足はしっかりと地面に着いていることはわかる。


 一歩一歩進んで行く。変わらない景色と何処までも続く白。


 不思議なことに不安はなかった。どのくらい進んだかわからない。


 だけど何かに近づいていることだけはわかる。この先に何があるのか――


 「さーて何があるんだろーねー?」


 「っ!」


 いきなり後ろから声を掛けられて身体が飛び跳ねてしまった。


 「あはははっいいリアクションどうもありがとー」


 振り返ると背の小さな男の子が立っていた。


 「あの、君は?」


 「ん?僕かい?僕は神様だよ自称だけどね~」


 「えっと、その、神様?はどうして私の前に?」


 私は自称神様を名乗る男の子の目の高さに合わせるようにしゃがみこむ。その時男の子が、むぅとした表情を作るがすごく可愛らしい。


 「その姿勢は気にくわないけどー今はしょーがない特別に許してあげるよー」


 「ありがとうございます」


 「この場所に来たのは君を入れて二人目だねー、よーこそ僕の世界へ」


 「ここは君の世界なの?」


 「そーだよ。神様にお願いして作ってもらったんだ」


 「?神様は君じゃないの?」


 ちょっと意地悪な質問をしてみた。


 「……」


 「……」


 男の子の身体がガタガタと震えだし、額からは大量の汗が流れて出した。


 「そ。そだよー?ぼぼぼっ僕がかみさまだー」


 「え?でもさっきお願いしたって」


 「気のせいじゃないかな~?」


 口笛を吹きながら私から目を逸らす。こういった行動を見ると何だか心が暖かくなる。張り詰めていただけに落ち着いてくる。可愛らしすぎて思わず私は彼の頭を撫でてあげる。


 「や、やめろー」


 嫌々と言ってくるけど彼はわたしのされるがままになっている、弟がいたらこんな感じなのかなー


 「そ、そろそろ時間だー。今度は僕がいじめてあげるからねー、ばいばーい」


 目を覚ますと明るい日差しが窓から差し込んでいた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「おはようございますジャックさん」


 「おはよう詩織、朝食はもうすぐ出来るから先に顔を洗っておいで」


 「はい」


 ジャックさんと朝の挨拶を交わして顔を洗いに洗面所に向かう、ひんやりと冷たい水が気分をスッキリさせてリビングへと向かった。


 「朝食は軽めにしておいたけどよかった?」


 「はい、大丈夫です」


 テーブルに並んでいたのは赤みを帯びた魚、日本で言う多分鮭だと思う焼き魚とご飯に味噌汁といったシンプルなメニューだった。


 私とジャックさんが「いただきます」と言って二人一緒に食べ始めた。


 ジャックさんの料理はお世辞抜きで美味しい。だから私は食べている途中にこんなことを聞いてみた。


 「ジャックさんだったら料理でお店出せるんじゃないですか?」


 するとジャックさんは頬を掻きながら


 「実はもう出しているんだ」


 「そ、そうだったんですか」


 「うん、そこでオーナー兼スタッフとして料理を提供しているよ」


 「すごいです」


 そんな会話をしながら朝食を終え、私も食器を洗うのを手伝い、これからの予定を話し合った。


 「さて先ずは詩織の必要な物を買いに行こうか」


 「はい、ありがとうございます」


 ちなみに私は昨日とは別のワンピースを着ている。上が白でスカートが薄いピンク色だ。出かけるために玄関に着くとそこで気づいたことある。


 靴が無い。私はこの世界に来たときから何も履いていなかった。


 「あ、そういえば詩織は靴がなかったね……そうだ確かこの辺に」


 ジャックさんが靴箱の中を探して。


 「あったあった」


 手に握られているのは可愛らしいサンダルだった。


 「昔、華那さんがピェルナに買ってきたものなんだけど自分には似合わないと言ってそのままなんだ多分サイズも大丈夫だと思う、詩織がよかったら履いてみて」


 ジャックさんが履きやすいように揃えて置き、私はサンダルに足を通してみた。


 「どうかな?痛くない?」


 「少し大きいですけど大丈夫です」


 元々ピェルナさんのだからサイズは少し大きいけどありがたく使わせてもらおう。


 「それじゃあ行こうか」


 「はい」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■




 大体の必要な物は買い終え、ジャックさんの両手は私の物で塞がれている、流石に全て持ってもらうのは悪いので私が「持ちます」と言ってもジャックさんは「大丈夫だよ」と言ってそのまま持ってくれている。


 ジャックさんの隣を歩きながら色んな所に目を向けた。地面はアスファルトで舗装されていないもののあとの景色は日本とそんなに変わらない、電気もあるみたいだし、ちなみに各家に行き渡るように電線の設計図を作ったのはテスタさんみたいでこの街の電気問題を解決させたらしい、それと何か事件が発生した場合動くのはピェルナさんが隊長を務めている第一軍隊の人達。主に治安を守るための軍隊で日本で言うところの警察と同じ組織みたいだ。パルマさんはいつも街を歩き回っているらしい、何でも街の安全を確かめながら軍にアピールしているとジャックさんは言っていた。


 家に着いてゆっくりしたあとさっそくジャックさんがタスト語を勉強しようと言ってくれた。がんばって覚えていこう。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■




 勉強が始まって三時間が過ぎた頃には私の頭はパンク寸前だった。


 「少し休憩しようか」


 「……はい、すいません」


 「当然だよむしろここまで集中出来る詩織はすごいんだよ?テスタなんか日本語を覚える時なんか二時間も続かなかったからね」


 「テスタさんが?」


 「そうだよ、頭のいいテスタでさえ言語を覚えるのには苦労したんだ。詩織も時間を掛ければ話せるようになるよ」


 知らない言語を覚えるのはすごく神経を使う、でもだからといってここであまり足踏みをしていられない、ジャックさん達の期待に応える第一歩に繋がる必要なことだからここで自分に負けるわけにはいかない。


 「続きをお願いします」


 「もう大丈夫なのかい」


 「はい、少しでも早く覚えたいから」


 「わかったそれじゃ再開するよ」


 「よろしくお願いします」


 



ここまでお読みいただきありがとうございます!

次回も今週中に出しますのでよろしくお願いします!

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