新しい自分へ
大変長らくお待たせしました。
まだまだつたない文章ですがよろしくお願いします。
「そいつにそれだけの価値があるというのかジャック」
「僕はあると判断したから誓いを立てたんだ」
「分からんなそれは俺達にとってはただの言葉じゃない縛りだ。あの日のことを忘れたのか?」
「もちろん覚えているさ、それに今日は僕達にとって大切な日そんな日に――」
ジャックさんが私の方へと振り返り。
「詩織が来た」
一瞬心臓が跳ね上がったような感じがした。これは施設の中に居たときとは違う感覚。
知らない大人達から私を弄んでいるかのような表情と向けられる視線はとても気持ち悪く身体中に無数の虫たちが這いずり回っているかのような悪寒が走った。あの時も心臓が跳ねたのを覚えている。
でもジャックさんからは感じない。
はじめての感覚だった。
その時コンコンとドアがノックされた。
「いやーお待たせお待たせ」
入って来たのは頼りになりそうな凜とした感じの女性。肩までに切り揃えられた栗毛色の髪の毛にキリッとした目、軍服みたいな服装で頭を掻くような仕草でテスタさんの左隣に座る。
「最初からお前が時間通りに来ることなど期待していない」
「テスタは相変わらずだね毎年どれだけ変わったのか期待しているんだけど今年も駄目だったようだ」
「勝手に期待などされても困るがこれが俺だ、変わるつもりなど無い」
「ふーん」
「何だ?」
「別に」
ジャックさんを見ると苦笑いしていた。おそらくこれは見慣れた光景なのだろう。そんなことを思っているとふと目が合った。
「ピェルナ紹介するよこの娘は詩織、多分気づいているとは思うけど華那さんの娘だ。そして詩織、彼女はピェルナ。ピェルナは今アドアラー王国の軍に所属している」
「詩織ですよろしくお願いします」
「やっぱりねなーんか似ているとは思ったけどハナちゃんの子供ね納得したよ。私は今紹介された通りアドアラー王国直属第一軍隊隊長をやっているよろしく」
ピェルナさんと握手を交わす、その時に気づいたけど背が高い。百七十より少し上くらいだろうか服装のせいで少しダボッとしているもののスタイルの良さを邪魔していない、むしろアシストしているように感じる。同じ女同士だけどピェルナさんが格好良く見える。
「所で詩織ちゃんその格好はどうしたの?」
「これは施設に居たときのものです、すいません汚くて」
「施設が何か分からないけど駄目じゃないかジャック、女の子に何時までもこんなもの着せちゃあ」
「本当は着替えを用意したかったんだけど華那さんの部屋に入る度胸がなくてね。ピェルナかパルマのどちらかが来たときにお願いしようかと思ってね」
「はあーまぁそういうことなら仕方ない、おいで詩織ちゃん部屋まで案内してあげる」
「お願いします」
■ ■ ■ ■ ■ ■
ここがお母さんがこの世界で過ごした場所。
「パッとしないでしょうハナちゃんの部屋は」
確かに大きな物は部屋と同じ木製のクローゼットとベットと机くらい、後は小物入れっぽい引き出しが付いた物があるくらいで言われたとおりパッとしない。
でも何でだろう安心する。
「――でも何でだろうねここの空気は安心する」
ピェルナさんも同じことを思っていたみたいだ。
だからなのかピェルナさんにこんな質問をしてみた。
「お母さんはピェルナさんにとってどういった存在だったんですか?」
「どういった存在か。一言で言うなら友達かな」
「友達ですか?」
「ああそうだよでもここで話すと長くなるからさっさと着替えて戻るよ」
「あ、はい」
「詩織ちゃんは肌が白くて綺麗だからこれなんかどうかな?」
ピェルナさんが手にとったのは白いワンピースだった。
さっそく手にとって着替える。今まで着ていた物はピェルナさんが処分すると言って部屋を出て行った。
私は、はじめてワンピースを着た。五歳の頃から施設の中だったためこういった服を着たことがない私にとって新鮮過ぎて似合っているのかすら分からない、数分もしないうちにピェルナさんが戻ってきた。
「うん。サイズもあっているし綺麗な黒髪が映えてて凄く可愛くなったよ」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ着替えも済んだし戻ろうか。しーちゃん」
「しーちゃん?」
「そ。詩織ちゃんて長いからしーちゃん、駄目だった?」
「いえ!全然大丈夫です!」
「あははっ可愛いなしーちゃんは。それじゃ行こうか」
「は、はい!」
■ ■ ■ ■ ■ ■
「ようやく戻ったか、これだから女の着替えは長い」
「まあまあテスタ見て見なよ生まれ変わったしーちゃんを」
私はピェルナさんに背中を押されテスタさんの横に出た。
「しーちゃん?」と言いながら私の方に顔を向ける。
「……ふん」
それだけ言うと直ぐに私から目を逸らした。やっぱり似合ってなかったのかな?隣を見るとピェルナさんがテスタさんのを肘で突っついていた。ジャックさんの所に戻る途中で「似合っているなら素直に言えばいいのに」「……うるさい」と二人が小声で会話しているのが聞こえて心の中で少しほっとした。ジャックさんは私を見たまま動いていない、瞬きを忘れているのか目が開いたままだから私は不思議に思って「ジャックさん?」と声を掛けた。
「あ、ああそ、その、凄く似合っている、よ」
それを聞いてようやく安心した。私はまだこの服装になれていない、皮肉にもそれは長年着ていたあの服に違和感が無くなってあれが私だと思っていたからだ。でも本当は今着ている服が正しく本当の私。あれは過去、今はまだ違和感があるけどこれからなれていけばいい違和感が無くなり着ているこれが自然になるように。
もう一度ジャックさんを見るとはじめて目を逸らされた。あれ?と思い私は少し回り込んだ。
ジャックさんは背が高いため下から少し覗き込む形になる。ジャックさんは私に気づいて大きく目を見開きすぐに両手で顔を隠した。
でも私は見たジャックさんの顔が真っ赤に染まっていた。それが移ったのか私は自分の行動に恥ずかしくなって同じように両手で顔を隠した。
それを見ていたのかピェルナさんが「やれやれ」と呟き「くだらない」とテスタさんが呟く。
この空気どうしようかと考えていたときドアが大きく開かれた。
お読みいただきありがとうございます!
次回はもっと早く更新できるよにがんばります!