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君と語る物語  作者: 浅井 岸
第一章 迷いながら少しずつ
3/12

その決意に口づけを……

勢いで書き上げました!

よろしくお願いします!

 「どうしてお母さんの名前が?」


 「やっぱりね、面影があるからそうじゃないかと思ったよ」


 「じゃあ、この国を造ったのって」


 「君のお母さんだよ、僕達は華那さんを筆頭に色々と手伝ったりしたんだ」


  私はその場から立ち上がりジャックさんに頭を下げた。


 「お母さんとの知り合いとは知らずに色々とすいませんでした」


 「顔を上げてよ僕の方こそ早く教えてあげればよかった、ごめんね」


 「そんなこと」


  と私が言いかけると下の階の方から音が聞こえてきた。


 「着いたみたいだね相変わらず時間に正確だ」


 「誰か来られたのですか?」


 「実は今日は僕達にとって大切な日でね、毎年この日はみんなで顔を合わせることになってるんだ、っとごめんねちょっと待ってて」


 私は言われた通りその場に座って待っていた。


 でも驚いた、お母さんが座っていた場所に今度は娘である自分が座ることになるなんて、そんな風に考えると遠い世界だと感じていたのが嘘みたいに身近に感じられるようになってきた。

 そして私はテーブルの上を触ったり、椅子に座り直したりとかして遊んでいた。


 しばらくするとドアが開けられジャックさんともう一人男の人が入ってきた。その人は私の顔を見て一瞬驚いたように目を見開くが、眼鏡をくいっと上げると口を開いた。


 「俺の名はテスタ、こいつから話は聞いた」


 言いながらテスタさんは私と向かい合うように入り口から一番近い手前の席に腰を下ろした。白を基調した服装。白いスーツの上に薄手のコートを着ていて清潔さを感じる。でも表情は硬く目に少し掛かっている銀髪の隙間から覗く視線が少し近寄りがたい雰囲気を出している。


 「は、はじめまして私は――」


 「『華那』の娘、だろ?それ以上の情報は必要ない」


 冷たく鋭い視線が私を射貫く、正直痛い。怖い。


 「ふん、この程度の視線で俯くか話にならないな」


 「テスタ!やめないか!怖がっているじゃないか!」


 「気にくわないんだよ俺は、何故そこにいる?何故俺の目の前にいる?お前にその場所は相応しくない――立て」


 びくっと身体が震えた。顔を上げると眼鏡の奥に並ぶ鋭い二つの眼光が私を捕らえていた。瞬間重力が重たくなったような感覚が襲い顔を向けるので精一杯だった。


 「聞こえなかったか?」


 「い、いえ、その身体が」


 「もう一度だけ言う、立て」


 「テスタ!」


 「ジャックこいつには無理だ話にならん最初こそ少し驚きはしたがそれだけだハッキリ言おうこいつと一緒に国を立て直すのは無理だ」


 「国を、立て直す?」


 「何だ聞いていなかったのか?ジャックどうやらお前の一人相撲だったみたいだな、あいつも今聞きましたあるいは今知ったって顔だ、せめて何かしらの答えは用意してて欲しかったよ」


 「くっ」


 「皆が集まってから言うつもりだったのか知らないがこれだけは言っておく再びここに全員が揃う事はもう無い、二度とな」


 その言葉聞いた時私は胸の辺りをえぐられどろどろと何かがこみ上げてくるものがあった。

 

 『もうお前があの頃に戻ることは二度と無い』と。


 施設に入るときに言われた一言だった。


 あの時の感覚が蘇って来る、視界を覆うように黒く、冷たい闇が。


 私は必死に自分の体を抱きしめた。少しでも暖まる為に、体温を感じる為に必死に、また独りになるのだろうか?暗く冷たい世界に戻るのだろうか?本当にもう二度とあの頃のようには戻らないのだろうか?誰か!誰か!!いないの!?叫んでも振り向いても誰もいない、もう、戻れないのかな……


 不意に暖かさを感じる光が現れて私はそれを求めるように光の先へ走った。


 気が付くとジャックさんが私の身体を包み込むように抱きしめてくれていた。


 その時、何かが頬を滑り落ちていくものがある、涙だろうか止めどなく流れ次第に目の前は晴れていった。零れ落ちた涙がもう戻らないように、過ぎ去ったことがもう戻らないように……


 けれどそれは『二度と』何かじゃない気がする。


 だったら、私は


 「ごめん辛い思いをさせてしまって」


 「いえ、ジャックさんのおかげで大丈夫です」


 今なら立ち上がれそうな気がする。


 「ようやく立ったか」


 「聞かせて下さい」


 「聞かせる?立ち上がることがやっとのお前に何を聞かせるんだ?」


 涙が混じって格好は付かないかもしれないけど今できる限界までテスタさんの双眸を睨み返す。


 「国を立て直すという話です」


 逸らさない絶対に、ここで逸らしたら駄目だ。絶対に。


 「……ちっ、まさかその目を二度も受けることになるとはな」


 ばつが悪くなったような顔をしてテスタさんは視線を逸らした。ふっと、途端に力が抜けてその場に倒れそうになる、床に向かっていた私の身体は止まりジャックさんが支えてくれていた。


 「す。すいません急に力が抜けちゃって」


 「君は弱くなんか無いテスタは頭の切れる男でね華那さんの頭脳みたいな役割をしていて僕達の中で多くの場数を踏んでるんだ。その彼の視線を破るなんて凄いことなんだよ」


 私はジャックさんに支えられる形でいることを選び、座るのをやめた。


 テスタさんが言っていたように私にはまだ相応しくない、少しずつ少しずつ強くなって行こうと決めた。


 「話をする前に右手の甲を僕に預けてくれないかな?」


 「甲をですか?」


 「っつ!ジャック!お前まさか!?」


 「大事なことだから」と耳元で囁き私の前に膝を着け右手をそっととられると。


 「名前は?そういえばまだきいてなかった」


 「あっ、詩織です!」


 「詩織か良い名前だ。それじゃはじめるよ」


 「はい」


 『我が名はジャック、貴方の指さす方向を切り開き導く者。手に掴むそれは貴方の求めるものを。ここに誓いを立てましょう』


 ジャックさんは右手の甲に口づけをした。


 それははじめての経験で少し暖かくくすぐったい感じだった。


 「これで僕は正式に君の、詩織の右腕となった。これからよろしくね」


 「よ。よろしくお願いします」


 差し出された右手に私も右手で応え、交わした。


 



 

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