第8幕 逮捕と陰謀論
山田一郎の逮捕は、地元紙の19面を飾ることになる。
罪状は「不法侵入」ならびに「窃盗」であった。
当時の裁判記録より、情報を書き出す。
(裁判官)「被告は深夜23時頃に○○氏宅へ許可なく侵入し、○○氏の下着5点を窃盗したということに誤りはありませんか?」
(被告)「当時は月見どろぼうの最中であり、各家庭に侵入するのは当然の行為である。また、月見どろぼうで盗むのはお菓子であって、下着を盗んだ記憶は無い」
(裁判官)「月見どろぼうとはなんですか?」※1
(被告)「日本の伝統的な行事も知らないのか! こんなところまで文化の崩壊が!」
(以降、被告が錯乱状態に陥ったことから裁判中断)
この当時、法の番人であるべき裁判官にまで文化侵略が進んでいたことが分かる。
結果、山田一郎は抑留されることになるが、獄中で山田一郎は一冊の本を書き上げる。
それこそが、今後の日本の歴史を変える一冊とされる『我が妄想』である。
この本は非常に過激な表現を使って日本文化の崩壊を訴える内容となっており、日本中に衝撃を与えたと言われている。
実際に書籍の一節を抜き出す。
「日本の歴史的価値観、文化は西洋の腐った文化によって崩壊の危機を迎えている。
まるで土着の女神信仰をマリア信仰に書き換えられた南米の人々のように。
自らの神を悪魔の手先とされキリスト教によって迫害されたオリエントの国々のように。
このまま文化の浸食が進めば日本人としての文化は崩壊し、キリスト教国によって精神的支配がされる日は近いであろう。
全ては陰謀なのである。この陰謀を崩すために我々は立ち上がらなければならない。たとえ妄想だと多くの人々に嘲笑を受けたとしても、決してこの動きを止めてはならない。
そのためにハロウィンを潰せ、クリスマスを壊せ、バレンタインを崩壊せしめよ!」(『我が妄想』より引用)
この書籍の出版により、当時生涯独身率が4割を超えていた日本の各地で独身男性によるキリスト教的文化の排斥運動に火が付くのであった。
※1 裁判官は別の地域から転勤で来る者も多く、ローカルルールを知らないことが時折あることが知られている。詳しくは「電信棒 裁判官」などで調べてほしい。




