第12幕 バレンタインって恵方巻を食べる日だよね?
こうして仲間を集めた山田一郎の考えた計画名は
『バレンタインって恵方巻を食べる日だよね?計画』
と呼ばれている。
バレンタインの日に、独身男性たちが一斉にカップルを睨みつけながら恵方巻を食べるという、それだけの単純な行動である。
しかし、ここには暴力による革命ではない、インドのガンジーにつながる非暴力不服従の精神が息づいていた。
当時、独身男性による集団行動は全て政府による弾圧対象となっている中で、個別で恵方巻を食べるだけ、という大義名分によって抵抗の意志を現したのだ。
さて、ここでなぜ恵方巻か、について説明する。
2000年代後半からコンビニチェーンならびに海苔業界によって『節分は恵方巻を食べよう!』というキャンペーンが大々的に繰り広げられた結果、恵方巻の廃棄が社会問題として取りざたされる状況となっていた。
そこに舞い込んだのが、バレンタインに恵方巻を食べるという計画である。
サークルKKKが賛同の意を表明し、恵方巻は廃棄せず、恵まれない独身男性に寄付すると宣言したのだ。
廃棄によるイメージ低下を恐れたコンビニ各社も慌てて追従、山田一郎はタダで恵方巻を確保することが可能となり、全国の協力者たちに恵方巻を無料配布してバレンタインの日にかぶりついたのであった。
その話題はあるテレビ制作会社によってバラエティ番組で取り上げられた。
更に、それの話題に対してのお姉系タレントの発言が話題を呼んだのだ。
「余り物の恵方巻を余り物の男たちが食べるって超うけるー」
「余り物の恵方巻を余り物の男たちが食べる」
このキャッチフレーズは瞬く間に流行語として世間に広がっていく。
ある子どもたちはギャグとして、ある独身男性は自虐として、様々な場でこの言葉が使われ、広まりを見せていった。
次第にバレンタインには街中でカップルを睨みながら恵方巻を食べる独身男性が増加し、かつて街中を我が物顔で歩いていたカップルはバレンタインの一日は互いの家で静かに過ごすように変わっていく。
こうしてバレンタインに独身男性が恵方巻を食べる文化がじわじわと広がる一方で、山田一郎は更に追加の一手を打つ。新たな風習を追加したのだ。
「バレンタインに恵方巻を食べてる独身男性に、独身女性から乳製品をプレゼントするとその日一日はカップルとして成立する」
この行為を山田一郎は「独身男性にとってのスジャータ」と呼び、女性週刊誌などに大々的に宣伝していった。
それまで独身男性だけのイベントであったものに、独身女性を巻き込んだのだ。
これには年々乳製品の売り上げ低下に悩んでいた牛乳業界からの支持も確保し、山田一郎の計画は加速していく。
バレンタインの日、街中ではモテない男性が恵方巻を食べ、モテない女性が牛乳をその男性に差し入れする。そのような輪が生まれたのである。
ただバレンタインへの怒りをぶつけるのではなく、優しく手を差し伸べる。
この精神こそ、山田一郎は母親からもらった『愛』によって生み出されたものであったのだ。
こうしてコンビニ業界、海苔業界、牛乳業界の後ろ盾を得てマスコミすらも味方につけた山田一郎の計画は一気に全国に広がりを見せていったのであった。
その後、バレンタインにカップルが互いの家に籠ることから妊娠・出産が増加。また、『バレンタインって恵方巻を食べる日だよね?計画』によって結ばれるカップルも大量に誕生するようになり、次第に日本は少子高齢化からも脱却することに成功するのであった。




