2日目 朝
懐かしい夢を見た・・・
これは・・・いつだ・・・
君は・・・誰だ・・・?
ジリィィィィィィ!!!
「ん・・・」
やかましい目覚ましを、軽く手を伸ばし止める。
微かに記憶に残っている夢。昔のことだろうか。
そんなことを考えながらもう一度目を閉じる。
二度寝こそ男の真髄と語ったこともある。
一瞬で否定されたっけな・・・。
あれ・・・いつだっけ・・・まあいいや・・・。
「ぐぅ・・・」
「まったくだらしないわね」
「香織さん・・・終わったら返してくださいね。それは」
「えっ?わかってるわよ。まあすぐ終わるから」
「わかりました」
「必殺!!兜落とし!!」
「がぁああああああああ!!!」
なんなんだ・・・いったい・・・。
あっ!あれはばあちゃんが・・・
「ばあちゃんが・・・手を・・・振ってる・・・」
「はい。ありがとうね美咲ちゃん♪」
「いえいえ。これがないと目玉焼きが作れませんから」
そうか。武器は言わずと知れたあの鉄板か。
俺は軽く一分ほど苦しんでから起き上がった。
「・・・一つ聞くが、技名はなんだった?」
おそるおそる俺は聞いた。
「必殺兜落とし」
「必殺ってのはな!必ず殺すって事だ!!永遠に寝かしてどうする!?」
そうだ。高く舞い上がりその落下スピードを利用し相手に攻撃する技。
フライパンであの威力だ。っていうかまず軽く血が流れてるような気もする。
気のせいでもないが。
それに対し、香織は軽く腰に左手をやり、右手を頭に当てて、舌を出し――――
斜めに体を傾け
「てへっ」
「んな一芸なんか覚えるなー!!」
「はぁー・・・なんか朝から疲れた・・・」
なんとか着替えを済ませてリビングに下りた。
香織は美咲の横に座っている。もちろん香織の分の食事はない。
「ため息なんて、なんか貧乏くさいわね」
「そうですよ。だいたい起きない兄さんが悪いんですから」
「いや・・・それより美咲」
「?」
きょとんとする美咲。なにを言われるかわからないようだ。
「フライパンなんて凶器をこいつに渡すな!!」
ビシッ!と香織を指す。
「こいつは、料理道具を持つと凶暴になるんだ!!料理という名の暗殺術を使うからな!!」
「勝手に変な設定にするな!!」
香織の得意技の手の甲でのツッコミが決まる。
「それよりもなぜ日曜にこんな朝早くに起こされなきゃならない」
「はぁーあんた記憶力ってものが無いの?」
「兄さん忘れすぎです。だいたい、もう昼ですよ」
ふと時計を見る。一番上で針が重なりかけていた。
つまり正午だ。
かなり頭が重い。こいつらはまったく辛くないのだろうか?
あんだけ酔っ払ってた美咲もケロりとしている。
「いや・・・あんだけ飲まされるとな。それより約束ってなんだ?」
「結花里さんがみんなに来て欲しいって言ってたじゃないですか・・・。忘れたんですか」
「あっ!そういえば・・・」
「あんたは・・・」
帰り際に言ってたな。確か・・・。
「明日ちょっとお話があるのでまた来てくれます?」
岩崎結花里。
昔なじみで一個上のお姉さん。
性格はおっとりしていていつも周りを気にしている。年上というのはそういうものなのだろう。
そして特殊能力『予知夢』。
俺の火―――志穂さんがいうには、パイロキネシス。
念力放火能力というものらしい。よくマンガにでてくるのと一緒だ。
まあ威力は、ライター程度の力しかないのだが。―――
結花里さんは寝て夢を見る。酷く焦燥感や慨視感。義務感というものが残る夢を見た場合大抵それは、予知夢になるらしい。
これにより、抜き打ちテストを予測して点数を取ったということもあるらしい。
不安定な力。俺の力とは違い故意に使うことは出来ない。
「話ってなんなんだろう?」
香織が考え込む。
「さぁ、でも深刻な事なんでしょうね、昨日の様子だと・・・」
「そうだな、嫌な事じゃなきゃいいがな」
一美の家に向かう。電話で一緒に行こうと伝えてある。
ソラノホシに行くにはどちらにせよ、一美の家を通るのだ。
ピンポーン
『はーい!!』
「一美さんいますか?」
『あっ!?ちょっと待ってー!わっ!?』
ドスン
どうやら一美のようだ。こけたみたいだ。
呼び鈴をならした後、ものすごくバタバタする音が聞こえた。
「お待たせー。ごめんねー」
「こんにちは一美さん」
「こんにちは、美咲ちゃん」
礼儀正しく挨拶する美咲。ほんとうに生真面目なやつだよな。
「ん?だいじょうぶか?壮絶にこけてみたいだしな」
少し赤くなったおでこを見て言う。
「えっ!?あ・・・うん。大丈夫だよ!」
「そっ・・・そうか?ならいいが」
なんか騒がしい奴だな。香織と比べると核兵器とコルトパイソンくらいの差だが。
なんだか周りにはまともそうな奴はあまりいないらしい。
「一美は何か聞いてる?結花里さんから」
「ううん・・・何も聞いてないよ?」
「行けばわかるか」
ソラノホシへ向かった。