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夏の軌跡  作者: Ej@world claim
1日目
7/10

1日目 ソラノホシ

「そしてたどり着いた・・・」

「誰に言ってるの?」

「わっと・・・!?心の声が漏れてしまった・・・」

ナレーションまで、声にしてしまった。

まさに間抜けだ。

「ここは・・・もしかして」

「久しぶりだろ?ソラノホシは」

ドアには、貸切りの札がかけられている。

「さあ入れよ」

軽く戸惑っている一美の背中を押してやる。


カランカラン


ベルの音。


そして―――


パン!パン!


「わわっ!!」


「「お帰りー!!」」


中には垂れ幕や、ロープなど、クリスマスの時のような内装になっている。

大きく『一美お帰りなさい』と書かれている。

「さあこっちよ一美!」

「う・・・うん」

香織が困惑気味の一美を引っ張って椅子に案内する。

結花里さんと美咲が豪華な食べ物を運んでくる。

多分クラッカーのあとすぐに厨房に行ったのだろう。

そういや、志穂さんの姿が見えない。

「兄さんどうしたんですか?座ってください」

「あぁ・・・そういえば志穂さんがいないなーって」

「志穂さんなら今日は貸切にしたから休みだと言ってパチンコに行きました」


「・・・」


「ほら!!弘樹早く!!」

俺は席に着いた。いつものテーブルの位置ではない。

テーブルを移動させてくっつけている。

その上に、盛大な料理が並べられている。

「うまそうだな」

「そうでしょ?」

「なんでお前が得意げなんだ?作ったのは美咲と結花里さんだろ」

「いいじゃない!!!少しは手伝ったのよ!食器並べたりとか・・・」

もはや子供のお手伝いレベルだった。

「まぁまぁ香織ちゃん落ち着いて」

結花里さんがなだめる。昔からおっとりしていて、でも皆のことをちゃんと見ていてくれる。

そういえば今日会うのは初めてだ。

「それより早く食べようよー」

「しかたない・・・一美もこういってるし食うぞ!!」

「じゃあ乾杯!!」

「「乾杯!!」」



皆で話しながらメインの料理は食べつくした。

残るはケーキだけだ。しかも半端なくでかい。

なんでこんなにでかいのを作ったのだろうか?

いやそれよりも、これを台所で作ったこと自体が謎だ。

「じゃあデザートと行くわよ!!」

「お前よく食べるよな・・・。流石怪獣。っていうか胃袋がおかしいぞ」

「っ!?いいじゃない!!おいしものはいくらでも食べれるのよ!」

「そうですよ?」


「「えっ?」」


結花里さんの相槌に香織とハモッて驚く。

「これくらいなら全然平気でしょう?育ち盛りなんですよ」

「結花里さん・・・あなたって・・・」

一種の謎だった。

すると―――


カランカラン


「やっほー!みんな元気!!」

結花里さんの母である志保さんが帰ってきた。やたらと大きな紙袋を持って。

志保さんは年齢を聞くたびに、鉄拳で返してくる。

見た目が若いだけに一体何歳かわからない。

「いやー。大量だったよ!出る出る当たりまくりだったよ!」

そしてパチンコに行って帰ってくるような豪快な性格でもある。

結花里さんの母性はこの母親がいるからこそ出てるのかもしれない。

反面教師というやつだ。

「一美ちゃんおかえりーー!!」

「はわぁ!?」

抱きしめ、撫でまわす。さもどこかの動物おじさんのように。

「ちょっと、お母さんそれくらいで」

一美を引き離す。

「だって、久々に会えて嬉しいんだもん」

「だもんって歳じゃないだろ」


ドゴッ!!


腹部に鈍い痛み。

「何か言ったかしら?」

目が笑っていなかった。

「志保さん!ただいまです」

びしっと敬礼するポーズで一美は言った。


「おかえりなさい。そして乾杯よ!!」

どこから取り出したのかビールを掲げる。

「もうまたですか。何回すればいいんです」

あきれたように美咲は呟くが、グラスに手を付ける。


「何度でもいいだろ。よっしゃ!いくぜ!」


「「乾杯!」」


志保さんが持ってきたお酒により、一美、美咲、香織は撃沈している。

結花里さんだけが、後片付けをしている。


「ちょっと、外で一服しない?」

「わかった。」

そして、志保さんと二人外に出る。


二人でタバコに火をつける。

志保さんは俺の能力に関しては知っている。

「一美ちゃんが帰ってきたわね」

「ああ、一美も覚えていたよ」

「ごめんね。私はそれを覚えてないのよ。話は決して疑ってはいないのよ。でも、記憶がないの」

そう、光矢に関して覚えているのは、あの夏の日のメンバーだけ。

つまり、俺と美咲、香織、結花里さんそして一美だけである。

「志保さんはそんな顔しないでくれ。別に悪いことでもないし、仕方ないんだ」

「そういってくれるのは嬉しいわ。でもねこれは結花里にも関係することなの。なら母親の私も関係することよ。だからいつでも頼りなさいよ」

吸い込んだ煙は、夜に溶ける。果たして消える先はどこなのか。

人が消えることがあり得ないことだと分かってはいるが、現実に起こった。そしてそれは突然で奇妙で計り知れない何か。

「じゃあもうそろそろ戻りましょうか。勘違いされても困っちゃうし」

と店の中へ戻っていく。

「まったく。あの人は・・・でもありがとう」


店の中は相変わらずの死屍累々であったが一美は復活して結花里さんを手伝っていた。

「頭・・・痛い・・・」

香織は呻いている。

「すーすー」

美咲は眠っている。

「さて、おい香織帰るぞ。美咲も起きろ」

「うーん・・・ガンバルよー」

何をだろうか・

「うぅ・・・お兄ちゃん・・・」

美咲は寝ぼけていた。

「あらあら懐かしい呼び方ね」

結花里さんが奥から戻ってきた。

一美も一緒である。

「じゃあ一美ちゃんは私が送るわ」

「お願いねお母さん」

「すいません志保さん」

そして結花里さんは俺の方に向かって

「明日ちょっとお話があるのでまた来てくれます?」

「ああ、どうしたんだ」

「ちょっと、伝えたいことがありまして・・・」

真剣な話なようである。


「帰りますよ。兄さん」

「えっ!?ああ、起きたのか」

「はい。だから今すぐ帰ります。香織さんも早く」

「う・・・ん」


「では、また明日」

ソラノホシでの一美の歓迎会は幕を閉じた。

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