転生完了
凄まじい勢いで情報が直接脳にインストールされていく。としか表現できない気分だった。これが終わると身体の感覚が鮮明になってくる。
温かい。これは太陽の光か。
風だ。そよ風が吹いている。
空気が美味い。草と土の感触。
なにもかもが久しぶりだった。
「うわぁ……」
青い空。白い雲。緑の大地。地獄では見ることのなかった景色が俺の眼に飛び込んできた。
百年振りの現実世界。あ、違った。ファンタジー世界と言っていたか。何か面白いものはないだろうか。あたりを見回してみるが美しい大自然だけだった。
今いる地点から東へ一時間ほど歩くと街が見えてくる。なぜかそんな知識があった。この世界の常識がなぜかわかっていた。おそらくこの肉体にインストールされていたんだろう。
相棒の生駒も腰にさげられている。よし。一旦気持ちを整理して目標を掲げてみるとしようか。
まずは生活。何を目標にするでもまずは衣食住を確保せねばなるまい。そうなるとまずは冒険者となるためにギルド登録を行わなければならないな。決まった。
街に行ってギルド登録して冒険者になっておこう。
こうして街へ向かって歩を進めた。途中で魔物にも出くわしたが狼や熊のような魔物ばかりで地獄で鬼と暮らしてた俺からしたら敵でもなんでもなかった。鞘に収めた状態で軽く殴りつけてやるだけで事は過ぎた。
川沿いの道を歩いていると多くの視線を感じた。一体なんだろうか?
「そこの旅人さん。命が惜しければ身包み全部置いていきな」
追いはぎ!? 盗賊か!? どっちも一緒か。街の外は治安が悪いのか。
「おい!! 聞こえているのか!? 返事しやがれ!!」
「はい」
何人くらいいるだろうか。できれば多いほうがいいなぁ。とりあえず刀に手を置き腰を落す。これで反抗するつもりなのが伝わっただろう。
「やる気か。馬鹿が……やっちまえ!!」
号令がかかると一斉に炎が飛んできた。
「おお!? これが魔法かあ!?」
つい口走ってしまった。いやまじすげぇ。手を俺に向けて皆して火炎放射するんだもん。目を輝かしている間にモロに攻撃をくらってしまった。
「おいお前ら馬鹿か!? 身包み剥がそうってのになんで火の魔法使うんだよ!?」
「あ!! しまったあああ!!」
馬鹿かこいつら。だがやっぱり地獄の溶岩池の熱さから比べると大したことないな。あ、本物の肉体だったの忘れてた。やけどしてる。
煙が晴れてくると盗賊たちは俺の生死を確認しにきた。よし。とりあえず一人目。
「ぐわ!?」
「おい!! どうしぐわっ!?」
二人倒した。とりあえず峰打ちで意識を刈り取っておく。気配を探ってリーダーらしき人物意外の盗賊を眠らせることに成功した。なるほど。常人相手なら楽勝だな。
「おいお前等!! 返事をしろ!!」
「全員眠ってるよ」
「な、なに!?」
リーダー格の男の首筋に刀身を当てる。男は冷や汗を流して緊張しているようだった。
「質問する。お前らは盗賊か?」
「そ、そうだ」
「許してほしければ金を出せ」
「こ、腰袋に入っている……」
「少ないな。もっと出せ」
「ね、眠ってる部下達からとってくれ。俺のはこれが全部だ」
男を放して俺は眠らせた盗賊たちの金を巻き上げた。金貨十枚。銀貨七十二枚。銅貨三十五枚。二十人から巻き上げたにしてはしょぼい金額である。
「これで命は助けてくれるのか?」
「助かりたいの?」
「さっき許してくれるって……」
「許すよ。でも殺さないだなんて言ったっけ?」
「そ、そんな!?」
「まぁ、これに懲りたらもう悪さすんなよ。こいつら起きたら連れて行け」
「わ、わかった。恩に着る……」
現場を後にした俺はちょっと後悔した。俺が盗賊みたいな事してるじゃん!? ぐぬぬ……このお金は寄付しようかな。本来の目的は身体能力の確認とこの世界の人間の力を見てみたかっただけなのだ。目的を達成したにも関わらずお金を巻き上げてしまったというこの罪悪感に俺は落ち込んでしまった。
街が見えてきた。入口の門の前に掲示板があり街の見取り図が張り出されていた。冒険家ギルドと宿の場所を確認していざ街に入ろうかと思った時、横に張られている懸賞首のポスターが目についた。そこにはさっき逃がした盗賊であろう人相書きと金貨五百枚という金額が書かれており、それをみた俺は即座に盗賊に襲われた場所まで引き返して男をひっ捕らえたのであった。